326 火の粉って恐ろしい
「うっわー、暇だ」
っつっても何にもなんねーんだけどさ。
でももっかい言お。
「うっわー、暇だ」
岳だ。
滅茶苦茶暇だ。
誰かに相手してもらおうにも、父さん母さん、多分兄ちゃんも仕事、姉ちゃんは受験勉強。光は絶賛昼寝中。誰が絶賛してんのかは知らん。
修也は電話したけど留守電になってたし、奈那子さんは別の奴と遊ぶ約束があるらしい。翔は習字とか言ってた。他の友達? 居るけど、連絡網どこにしまってあるのか分かんなくて電話かけられなくてさ。家もうろ覚えだし。
ちなみに百ます計算は切れてる。貰ったばっかりの3D○含めゲーム類は『一日一時間破ったから今日は駄目~』って母さんに取り上げられた。
しかも兄ちゃんに預けられて取り返すのは不可能。だってどこにいるかも分かんねー。
なんでこんなとこ厳しいんだよっ!
ピーンポーン
「んぁ?」
何か来た。間違えた。誰か来た。
姉ちゃんも光も出ねーだろな。オレが行くか。……どーせ暇だし。
「はい」
『針先でーす!』
インターホンって便利だよなー。寒い中外行かなくても応対出来るんだぜ? 楽でいいや。
きっとこれ考えた奴、めんどくさがり屋だ!
電話そっくりだから『はい、高山です』って言いそうになっけど。相手ここ誰ん家か分かってんのに。
……つーか、一回やった。すっげー恥ずかしくなった。で、姉ちゃんに代わってもらった。
「で、どちら様?」
『針先ですってばぁ!』
うっわ、何だこのキンキン声。超音波? 耳に受話器付けてたら鼓膜が疲れんぞ。
っつー訳で、テレビ電話みたいに向き合って応対することにした。
『名前ばかり叫んでもしょうがないだろう!
向こうどう応対すればいいか分からなくなってるじゃないか!』
あ、スパーンッ! って気持ちいい音と一緒に男の人の声も聞こえてきた。
『失礼しました。古賀です』
アンタも名前言っただけじゃねーか。どう応対すればいいのか分かんねーよ。
あ、いや。この名字は知ってるわ。コガさんだろ? 奈那子さんの名字は古閑じゃん。
「奈那子さんのお兄さんか何かですか?」
『は? ナナコ? 兄?』
違った。うっわ、恥ずかしー。
『もう! ハルやん先輩も結局駄目じゃないですか! 私が行きます!』
何人居んだよ。今度は普通の女の子の声?
『水ヶ岡中学校オカルト部の者です。高山くんか高山さんはいらっしゃいますか?』
うっさん臭い部活あるんだな、水中。
……あ、来年からオレもこの学校行くのか。
それよか、こっちに返事しねーと。
「うちは全員高山くん高山さんなんですけど」
『あぅっ!? あ、えと、いえ、そうじゃなくてですね』
うっわ、ちょっと楽しい。何この子。すげぇテンパってる。
…………あれ? オレってS?
『えっちゃーん! 落ち着いて! 落ち着いて!』
『あぅあぅ、あ、失礼しました! えと、あの、純くんか、忍さんいらっしゃいますか?』
うん、分かってた。言い直さなくても分かってたぜ。えっちゃん先輩。
「兄は出かけてます。行先はちょっと分かんないですけど。姉は今呼ぶのでちょっと待ってください」
『はいっ、お、お願いします……はぅ。緊張したぁ』
インターホンで緊張してたのか、この人。
ま、とりあえずいったん受話器置いて。
「姉ちゃーん! 何かうっさん臭い部活の人等が来てんぞー」
「追い返しといてー。今忙しい」
……いや、追い返せはねーだろ。
「その人等はいったんあったら滅茶苦茶しつこいからー! 失礼でもなんでもないからねー」
さよけ。
…………えーっと、オレぁどうすりゃいいんだ? 正直に言われたこと言うか?
それはちょっと悪いことしてるような気が。
「あたしが言った事そのまま言って大丈夫だからねー。雑草みたいな人等だからー」
雑草て。
しゃーねーな、じゃ、それでいっか。
顔会わせるわけじゃねーし! インターホン万歳だぜ!
「んっとですね、今忙しいから無理だそうで」
『えーっ!? ちょっとだけ! ちょっとだけだよ!?』
「いったん会ったら滅茶苦茶しつこいからー。だそーです」
『あぁ~』
なんで納得してんだよ、超音波の人以外の二人。
『えぇぇーっ!?』
『これ位じゃへこたれねぇっすよっ! オレ等、雑草の精神の持ち主なんです! 踏まれても踏まれても伸び続けるんで、覚悟しといてください!』
自分で雑草っつったよこの……今まで出てきた誰でもない男の人。何の覚悟だよ。
『……弟君か』
「はい?」
今度は誰だ?
『君は来年入学してくるそうだな。必ずうちに入部させるから、覚悟しておくように。それでは』
『部長、行きますよ!』
『むぅー』
…………入学前、卒業前どころか、三学期始まる前からトンデモねー奴らに目ぇ付けられたんだけど。