325 光ちゃんの手書き年賀状
「ねえ、純兄」
「あ?」
「昨日クリスマスだったよね」
「ん。それがどうした?」
「なのに今日年賀状書いてるって変な感じがする」
「知るか」
別に知らなくていいんだけどさ。
忍でーす。
リビングの座卓で年賀状書いています。パソコンで書いた奴に、ちょっと文字書き加えるだけの。
光も年賀状書いてます。でも、全部手書き。
岳は自分の部屋で冬休みの宿題やってます。投げ出してなければ。
純兄はソファで胡坐かいて何か書いてます。そこ、机も何も無いし書きにくくない?
「お姉ちゃん~、見てみて~」
「ん?」
光に見せてもらった年賀状には。
自分の頭よりも大きな龍の頭を掲げる小さな女の子が、ちょっと上から見た感じで描かれています。
絵ぇうまっ。筆ペンで清書されてる分正月っぽいし。女の子も花柄着物着てるし。
でも一番気になるのは、その女の子の周りに筆ペンで書かれた文字。
『みてみて すごいの拾ったー』
すごすぎるよ。
ってか、そんなモンどこに落ちてないよ。
色ペンで書かれた文にも書いてあるし。
『今年もよろしくね(中略)ところで、竜の頭って落ちてるものだっけ?』
違います。落ちてるものじゃありません。そもそも竜の頭だけしかないって事もそうそうないような。
「ね~、その首の後ろから血ぃ垂れてたら面白くない~?」
「怖いわ! 年の初めっから不安になる物送っちゃ駄目でしょ」
「あはは~。やっぱり~?」
思ってたなら言うなよ。はい、返す。
「あとね~、こんなのもかいた~」
ほいな。えーっと、これは……。
大きな龍の頭が、年賀葉書からはみ出すくらい大きく描かれてて、その鬣に女の子が二人埋まって……え? 埋まってる!?
それぞれ一つずつ台詞が書かれてる。
『ふかふかぁ~』
『ここ暖かいよ~』
これってふかふかしてるものなんだ。で、龍って暖かいんだ。いや、光が考えたのかもしれないけど。
龍の口元に三、四頭身くらいの男の子が二人立って、そっちにも台詞が。
『これどっからツッコみゃいいの?』
これはもう一人の方に向かって言ってるね。視線がそっち向いてる。その人の答えは!
『…………』
この人の気持ちが凄く分かる気がする。
鼻の上から全部、目が見えないくらい黒く塗りつぶされてる、漫画によくある唖然とした表情。もう何も言えないって感じの。
一人目の方もちょっと分かるかな。何で龍涙目になってんの? なんで女の子たち普通に龍をベッド扱いしてる、出来るの? というかそもそも、なんで龍が転がってるの?
「すごいでしょ~?」
「うん。何か色々すごい」
「でしょ~」
うん。
「まだあるよ~。はい~」
ほい。これは?
変な女の子が、振り向きながら上を見てる。箪笥か何かの上でしゃがんで、女の子を見下ろした感じに見えるな。
変な女の子って言うのはね……目の周りが毛深くて、角があって、耳の先がとがってて……角と耳には見覚えがあるな。龍に描かれてたのと同じだ。
で、髪型はなんだか鬣みたいに上に膨らんでて、それが背中をつたい、さらにはふっとい尻尾の先まで続いてる。
さらに全身に模様がある。トラみたいな縞模様。ふにゃふにゃって細かく曲がってるけど。これ、どう見ても裸だから自前だね。
あ、横に文字が書かれてる。
『試み⇒』
この矢印の先に絵があります。
『(龍+女の子)÷2(+X?)』
あぁ、龍を擬人化したのか。
(+X?)って何? Xって何? 謎の物体でも足したの?
まだ続きがある。
『ちょっとした冒険。
鱗がトラの縞模様になっちゃった』
あ、これ鱗なのか。言われてみればそう見えなくもない。
『やんなきゃよかったってちょっと思った! あはは~』
…………これ、誰に送るつもりだろう。