320 理科室で何やってんだこの人等
「やーやー、忍くん、どうしましょう。君は純が好きなのはあの子だって言ってたのに、彼はあの子を振っちゃいましたよ」
「うっせーな、リオン。大体なぁ! 俺等死神が人間に恋心抱いてえぇと思っとんか!」
「開き直ったね」
まぁ、開き直りも大切かもしれないけどねぇ。
リオンでーす。
完璧部隊、不吉部隊、問題部隊、化物部隊、色々なあだ名がつく第十三部隊に所属していまーす。
その色々なあだ名の中に、暇人部隊ってのもあるんだよね。あっはっは。
まぁね、俺等は他の部隊で手に負えなくなったものを扱ってるから。たまに数不足で他の部隊に派遣されることもあるけど。
「あぁーあ、てっきり純ちゃんが好きなのはあの子だと思ってたのにー」
「もしかして、好きだからこそ振ったんじゃ……だって、最終的には分かれにゃならんのじゃけ。初めっから振っといたほうがあの子のためにもなるじゃろ」
忍くん、結局君はどっち派なの? 純はあの娘……玲奈ちゃん? が、好きなのかそうでないのか。
「まぁまぁ、そのうち分かるでしょう。私たちはまったりと、温かく見守ってましょ。コーヒーでもいかが?」
『あ、どうも』
……うん、美味しい。この世界の食文化は進んでるねぇ。
流石科学の最先界。魔法の最先界とどっちが旨いかな。
「ごちそうさん。ところで、なんでマーリさんがここに?」
クッカ・マーリア・アハティラさん。名前長い。そして、なんでこの名前からマーリだけを抜き取って愛称にしたのかが分からない。
いや、呼びやすいからいいんだけどね。
「純ちゃんは大事な後輩ですからね」
「あっははー、俺からしたら一応先輩なんだよな。年下に敬語が使えんてこんなじゃけど」
「ねぇ、俺は? 俺、純の同期なのに敬語使われてないよ」
「同い年だからつい。まぁよかろに!」
えぇー。ちょっとちょっと、まぁいいでしょって、自分で言う?
「そもそも、忍ってほぼ誰に対してもため口じゃない? ほらぁ、エイラちゃんとか、部隊長とかにはちゃんと敬語で話すけどー」
それは、貴女が忍にため口で話しかけられたときに忍を冥界送り一歩手前にしたからではないでしょうか。
「エイラさん、例の女の子はどこ行きました?」
「丁度こっちに向かって来てるよぉ……鍵開けておこうか。この部屋、内側から鍵開け閉めできるみたい」
へぇ……。それにしても、なんだ、この部屋。
お腹がぷっくりした両生類が液体に満たされた入った瓶とか、円錐と細い円柱組み合わせたような形のガラスとか……何に使うのかさっぱり分からないものがいっぱいだね。
「あっ! 純ちゃんだ! 純ちゃんが入って来るよ! 皆、天井裏に隠れよう!」
あわわわわ、あわわわわ。見つかったら何言われるか。
……いや、何も言わずに呆れた目で見つめられるだけかもしれない。
「どっちも嫌だなぁ」
「何が?」
「何か言われるのと、黙って呆れた目で見つめられるの」
「あぁ、どっちも嫌じゃの」
はぁー、全体的にも死神最年少のくせに、口も頭も生意気度も全部上だよ。
俺が勝てるのは年齢、身長、体重、視力、後は魔法くらいだなぁ。
生意気なのは最年少だからかな? 大人たちに囲まれてるせいで擦れたかな……。
え? 天斬剣? いや……実は、あの子達は死校が手に負えなくなって、こっちで教育してくれとのことで預かってるだけです……。本当は学校卒業してないんだよ。ってか、卒業出来るわけないでしょあんな子達が!
「純ちゃんの様子はどうですか? エイラちゃん」
「息整えてまーす。ずっと玲奈ちゃん追いかけさせられて走ってたもんだから」
「あらあら、あの子は持久力無いんだから」
あぁ、もう一個勝てるところあったよ。持久力だ。
「もうマーリさん、お母さん的位置に居るな」
「ふふ。純ちゃんは確かに息子のように思ってますよ」
三十代中ごろだものね、見た目若いけど。
「あ、あ、玲奈ちゃん、もうここの前に来るよ!」
「お、純の奴、扉あけっぱにしちょーじゃん? うまく行きゃ入ってくれるで!」
あ、入って来た。少し遅れてきたクラスの皆さんは? ……階段を上って行ったね。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」
息切らしながらも、扉閉めて鍵閉めて、なんて出来るってのは凄いよ。よく考えましたー。
「ねぇ、マーリさん、たばすこって奴持ってません?」
「ありますよ」
あるんだ。
「貸してもらえます?」
「コーヒーに入れるのなら貸しませんよ」
バレたか。
「はー、はー、けほっ、こほっ」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫よっ。こほっ」
「無理して走るのはよくねぇぞ」
「べ、別に無理なんかしてないんだからねっ……て、なんでここに居るのよ!?」
玲奈ちゃんや、気付くのおそいよ……。
「いや、やっぱあの子はよくあるツンデレまんまじゃ」
「えぇー? ツインテールじゃないよ!?」
「……ツインテールは必須条件じゃないないですからね?」
「え? そなの?」
ちょっとちょっと! さっきから皆小声で話してるんだから、もうちょっぴり音量下げて……。俺だったら聞こえてないけど、純は耳いいんだから。地獄耳なんだから!
「玲奈ぁ」
「な、なに、よ?」
「よくも面倒事起こしてくれやがったな」
ぶっちゃけ引き金引いたのはアンタじゃないか?
もしくは妹ちゃんか眼鏡の娘だね。
「…………何よ。あたしだってすっごく恥ずかしかったんだから!」
「うん、だろうな。よく倒れなかった。偉い偉い」
「おちょくってんの?」
「うん」
純……君はいつも正直すぎる。
「やっぱり純は玲奈ちゃんの事好きじゃなかったよ」
「そうですねぇ……何だかんだで正直者ですもんね。そのせいで何人傷ついたか」
あぁ、正直に言ったのが純の毒舌だもんね……。多少嘘も交えることがあるけど。基本は事実だね。
おかげで言い返せなくて。いい年したおじさんが泣いてるんだよ。
ま、純曰く『尊敬できると思った人には言いません』らしいけど。
あれ? って事は俺等、まるで尊敬されてないと? むしろ見下されてる?
「純……あの、ホントに、あたしの事……」
「何とも思ってねぇよ」
「そ、よね。あはは」
「俺を人間だと思わせてくれる奴ってくらいにしか」
純、そのままノリに任せて死神の事話しちゃうんじゃ……。
「……何の話よ」
「こっちの話」
あ、ごまかした。
説明が面倒だったんだ! あれ!
「座れば? 立ってるより楽だろ」
「自分の家みたいに言うわね」
「ん? そうか?」
『そうだよ』
皆で一緒に言ってしまった……。聴こえてない? 聴こえてないよね?
「で、落ち着いたか?」
「おお、落ち着くわけないじゃない! 恥ずかしいのと緊張とで心臓爆発寸前なのよ!」
今まで落ち着いてたじゃない。
「そか。心臓爆発して死んだら、俺が冥界に送ってやるから安心しな」
安心できないよ。純のやり方は荒っぽすぎる。いきなり心臓突くんだもの。
未練があっても、即送るんだもん。未練解決してから気持ちよく送り出すのが俺のやり方なんだけどなぁ。
「安心できるわけ無いでしょっ!」
うん、正しいよ、玲奈ちゃん。
「はぁ……なんか、すっきりしないわ」
『それはねー、自分から告ったわけじゃないからだよー』
「え?」
ちょっとぉエイラさぁん! 何やってんですかぁ!
「大丈夫、霊術であの子にしか聞こえないようにしてるから!」
漏れてますよ! 俺にも聞こえてます!
『自分の口から告白しなきゃー。今、二人っきりでしょー。行っちゃえ行っちゃえー』
聞こえてるってば!
「じゅ、純!」
あんたも素直に従うなぁ!
「あの……好き、です」
駄目だこの子、素直すぎる。
「あぁ……ん、さっきも言ったけど。悪ぃな」
「…………うん」
これでちょっとはすっきりしたの?
「純、好きな子、居る?」
あれ? あきらめてない?
「………………居るよ」
『おぉおおおおお!?』
こら、忍! エイラさん! 騒がないで!
「何だ。あたし、初めから入る余地無かったのね」
「ま、そう言う事だな」
「……普通肯定する?」
純は普通じゃないからねぇ。何しろすでに死んでますから。死神は死ななきゃなれませんから。
死神はうつるって言うけど、あれ、死神に精気吸い取られてるって話なんだよねぇ……。
「ふぅ。ま、いいわ。分かった」
「良かった。粘ってきたらどうしようかと思ってた。ズタボロならずに済んだぜお前」
「もう十分ボロボロよ……」
「そうか。悪ぃな。もう俺に関わるのやめる?」
「関わろうと思わなくても、忍に関わってたら嫌でも関わるでしょ?」
「……そか、ま、今日の残り、忍はアンタに任せるわ」
「何? また早退? 何やってんのよ、いつも」
「ん? 暴力。ほら、教室に帰った帰った」
…………ヤバい。ヤバいよ。
「エイラさん、明らかに俺等ばれてますよ」
「逃げよう! マーリさんも早く……て、居ない!?」
逃げ足早いなマーリさん!
「小声、全部聴こえてんだよ。逃げ切れると思うなよテメェ等ぁ!」
純と言う名の修羅が現れましたァ! 誰か、助けて!? 冥界に送られる!