319 諦めるべき時は諦めよう
「おーい、高山ー」
「はい」
「いや、お前じゃなくて。妹の方」
「寝てるヨー。眠いアルー。寝かせてヨー」
起きてるだろお前。何で中華風?
全く……兄の方がちゃんと授業に出てるかと思ったら、今度は妹か……。
柿の種、あ、間違えた。牡蠣野胤です。
柿の種じゃないから! 言っとくけど!
「こらー、起きろ」
「安眠妨害って罪状で警察に送り届けてもいいアルか?」
だから何でアルがつくんだよ。寝ぼけてるのか?
「先生~、忍のそれ、本気寝だと思いま~す」
あのなぁ、山内。何処の世界にこんなペラペラ寝言を言う奴が居るって言うんだ。
「呼吸がゆっくりで~す。寝てるときの呼吸と同じくらいだと思うよ~」
いや、そりゃまぁそうだけどね。……高山妹なら演技でもおかしくないかと。
「柿の種、授業は? 無し? 最近こんななのか? 出て損した」
こらこらこらこら
「高山、何処いく気だ!」
急に立ち上がったりして……。
「既に眠りの世界へ旅立ってんだろ」
「妹の方じゃなくて!」
だぁあもう、何で名字で呼んじゃうかなぁ!
「純、だいじょぶだって、どうせ柿の、あっ。柿の種が折れて授業始まるんだから」
おい海中? 何で途中『あっ』って言っておいて結局柿の種で通したんだ? え?
「せっ、先生! 先生がふがいないから、純がどっか行っちゃうじゃない! べ、別に気にしてないんだからねっ、私は! 忍のためよ!」
どう高山のためになってるのかイマイチわかんないんだがなぁ。
……いやぁ、でもすごいなぁ、高山も。兄妹両方。
妹は、鈴木の大声がすぐそこでしてるのにピクリとも動かず寝てる、寝てるのか? し。
兄はクラスのごくごく一部からの殺気をさらりと流してるし。
来年はこの二人の弟が入ってくるのかぁ……どんな子だろ。
「玲奈さん、玲奈さん、少しよろしいですか?」
「何よ?」
「今の発言……と言うか、いつも言っている事の殆どが、もう純さんに好きだと告白しているようなものかと思うのですが」
中森、それはトドメと言わないか。高山(兄)にも丸聞こえだぞ、完全に。完璧に。
「中森ぃ、それって今さらアルヨー」
高山、それは本当に寝言か? いつまでその胡散臭い中国人みたいな話し方するんだ?
「純兄もう気付いてるネ。鈴木に好かれてることくらい」
…………トドメはこっちだったか。
「えぇ!? マジで!? なんだかんだで結局は鈍い奴なのかと……」
「あのな、夏。マジも何もねぇだろ。あんなあからさまな奴俺だって始めて見たわ。なぁ高山兄?」
「ん」
顔色変えずに頷いたよ。肯定したな、高山……。
「ねぇねぇ、亮、これって、これって……授業中にカップル誕生!? 凄くない?」
「…………シジミ、小声の意味、知ってる?」
小声で喋ってるにも関わらず全部聞こえてくるな。
「玲奈ー、大丈夫? 気絶してないか?」
中谷……・気遣いが出来る奴がいてよかった。
「だだだ、ダイジョブ、ヨ」
高山妹の寝言がうつったか!?
「よかった~、てっきりそのまま成仏しちゃうかと思った~」
山内、勝手に人を殺さない。何で成仏なの。
「……で? 高山くん、どうする? こんな可愛い子にクラス全員の面前で告白されちゃったよ? ここで答えないわけには行かないでしょう」
良かった。飛山見たいな話を進めてくれる奴がいて。
「これ、告白か?」
高崎、それは先生も思ったが突っ込んじゃダメだ!
「……久し振りにマトモに学校出れたと思ったらこれかよ……」
「大体お前は学校に来ないで何してる……ごめんなさい」
こ、怖かった……クラス全員ににらまれた……。はぁ。
「ほら! 高山兄! さっさと答えて!」
「ここで答えなきゃ男じゃないアル」
高山(妹)ほんっとぉおおおに寝言か、それは。
「え、答えにゃ駄目か?」
当然、と頷く生徒達。あぁー、あの、そろそろ時間が……。
「ん、じゃ、悪い」
『え!?』
振った。
皆の期待裏切ったぞこいつ。
「なんで!?」
「嫌いじゃねぇけど、好きでもねぇよ。精々ライクの一歩手前か」
「ちょっと。高山兄。はっきり言いすぎじゃ……」
それは先生でも思ったぞ。ちょっとそれは……。
「ちゃんと言う事言っとくべきかと思っただけだ」
「あ、はは。あはははは」
あぁあああっ! 鈴木が逃げてった……。
えぇいもう、俺は悟った! もう今日、授業は無理だ!
「もういいから、全員で追うぞ!」
言ったは良いが。
もう誰も居なかった。
あ、はは。あはははは!