317 作文を書こ、う?
「あ。やっべ。宿題やってねー」
「宿題は学校でやるもんだろ?」
あ、兄ちゃん、風呂からお帰りー。なんでカッターシャツに学ランのズボンなんだよ。
ところでだな、
「……兄ちゃん、宿題の意味分かってっか?」
「めんどくせぇ」
初めて聞いたぜそんな意味。
岳だー!
晩飯食って、風呂入って、歯磨きして、さー寝よー……って、ところで、ランドセルからはみ出す原稿用紙に気づいた。
やぁべぇ、作文の宿題やって無かったぁっ!
さて、そんな訳でオレにゃ三つの選択肢がある訳だ。
一、あきらめて寝る。
二、明日早起きしてやる。
三、今からやる。
……ま、そんなに眠くもねーし、やるかな。
えーっと、作文のお題は……連絡帳に書いてあるはず。
『そこらへんに転がっている石ころになったつもりで書きなさい』
「兄ちゃん、石ころの気持ちって分かる?」
「何かの嫌味か、それ」
何の嫌味にとったんだよ、これ。
「そうじゃなくてさ。作文のお題なんだよ、コレ」
「そんな変なお題初めて……じゃ、ねぇな。忍も同じ宿題出されてた気がする」
へー? あ、そういや、今の俺のせんせ、姉ちゃん達のクラスも担任やってたっけ。
「兄ちゃん、同じクラスだったんじゃ……」
「ん? …………サボってたんだよ、学校」
「小学生で!?」
二年に一回しかクラス替え無いから、五、六年だろ?
あのせんせは週一回で変なお題の作文書いて来いって宿題出すから、それにも気付かなかったってかなりのもんじゃ……。
「死神にも学校があってな。そっち優先してたから」
「兄ちゃーん、優先させるもん間違っちゃダメだぜー?」
義務教育なんだからさー。なんで中学の授業ついていけてるのか謎だぜ。
「大丈夫、間違ってねぇから。ついでにその言葉そのまんま返してくれる」
「あん? なんでだよ」
「さっさと宿題やんねぇと、寝る時間減るぜ?」
あ。やっべ。
「どうすっかなー。石ころ石ころ……拾われて、蹴られて、ドブに落ちて、ほっとかれる……ダメじゃん」
主人公ドブに落っこちて終わりはねーだろ。
じゃああれだ、朝が来て、昼が来て、車にひかれて、夜が来て、終わり……いやいや、ダメだろ。
車にひかれた以外なんもねーじゃん。リアルすぎだろ。
途中で割れるか? いや、何か怖ぇ。
「兄ちゃん、石にも命ってある?」
何か思っちまった。
「あってたまるか」
だよなぁー。って、あれ?
「なんで兄ちゃん、そんな上着着てんだ?」
なんだろな、黒くて、チャイナボタンって言うの? 長い紐で前止める奴が付いた上着。
「仕事」
ふぅん。だから部屋着じゃなくて制服なんか着てたのか。
「か、遊んでくる」
「何処でだよ!」
「霊界。あー、朝までに帰れたらいいなー」
んじゃ遊ばず帰ってくりゃいいじゃねーかよ。
「な、兄ちゃん、オレも霊界行きたい」
何か作文のいいネタ思いつくかも。どう考えても思いつきそうにねーけど。
「駄目」
「えー。何でだよ!」
「色々まずいから」
「何がだよ!」
「ナス口の中に突っ込まれるぞ」
「何処にそんな脅しに引っ掛かる奴が居るか!」
んな訳ねーじゃん!
「お化け居るぞ?」
「あんなのどこが怖いんだよ!」
友達にでもなってやんよ。
「化け物だらけだぞ?」
「兄ちゃん居るし」
「俺も化け物だったらどうするよ」
「兄ちゃんに襲われるこたねーだろ」
あ、兄ちゃん化け物って認めちまった。
でも、なぁ? 皐月姉と文月くんの滅茶苦茶けん法習得してたし……。
俺、アレ一か月くらいで折れたんだけど。
「あぁもう、駄目なもんは駄目だ。おけ?」
「えぇー。全然おっけーじゃねーよ。理由付けろよ!」
「めんどくせぇから、ヤ」
あ、逃げやがった! 霊体化して、壁すり抜けて外行っちまった…。
…………。
「岳、ちょっと来なさい」
「何だよせんせー」
「いや、作文の事なんだけど」
んだよー。朝来て昼来て夜来て終わりだけどさ、朝昼晩の景色もちゃんと書いたぜ?
朝、慌てて帰ろうとする化け物達(小石視点。なんかホッとしてる)
昼、ただの普通の町、ちょっとしたら、小学生が下校してく(小石視点。退屈そう)
晩、何処からともなく出てきた化け物達が遊ぶ(あくまで小石視点。ビビってる)
完璧じゃねーか!