312 物投げちゃいけません!
「奈那子さんの七海? 七海さんの奈那子?」
「おーい、何の夢見てるんだ? お前」
「七海さんが奈那子探し? あれ? 奈那子さんが七海探し……」
「それ本とに寝言か?」
「ぐー」
あ、絶対嘘寝だ。だってわざとらしいもんこの寝息。
修也だよ。
一応授業中。俺の後ろの席で岳が変な寝言言ってる。
「なんだよー、兄ちゃん、今日は土曜なんだから寝かせろよー」
「今日火曜! でもってここは学校!」
しかも何で純さん? 普通母さんじゃねぇ?
「馬鹿修也、今日は水曜だぜー」
「馬鹿はお前だろ。今日は本当に火曜」
黒板にも火曜って書かれてるし。
「馬鹿修也、今日が水曜であって欲しいって気持ち察しろよー」
察せるもんか。そんな訳わかんない気持ち。
「水曜だったら何なんだよ?」
「水曜だったら五時間で学校終わるじゃん」
「うん」
「掃除も簡単清掃じゃん」
「うん」
「楽じゃん」
「うん」
「早く帰れるじゃん」
「うん」
「いっぱい遊べるじゃん」
「うん」
「あー、早く学校終わんねーかな」
今まだ二時間目。
「あ、でももうすぐ冬休みじゃん。やった」
岳の思考回路ってどうなってるんだろう。
前の言葉と次の言葉に全然繋がりがない。そんなもんか、人間って。
……特に、適当に喋ってる奴。
「そこ二人、授業中に喋んな」
休み時間、あんなに暴れても起こらないくせに、何で授業中の私語には怒るんだろう。
「ほら修也、この問題、答えは?」
……む、聞いてなかったと思って……。
「きーてませんでしたー」
……事実だから仕方ない。文章問題なんか、ぱっと見てすぐ答えられる訳ねぇだろっ。
「ちゃんと聞けって言ったろ。じゃ、岳」
もっと無理だろ。
さっきまで寝てたんだから、俺よりも聞いてねぇし。
「4メートルでーす」
「……正解」
何で!?
「いつ聞いてたんだよ!?」
何か、この顔がムカつく。
えらっそーなこの顔がムカつく。
「へへーん、ただ寝てたわけじゃねーんだよ。聞きながら寝てたんだ!」
それ結局寝てるじゃねぇかよ。
「で、やり方と言うか、やって欲しい事と言うか。まぁそれは分かってたから? 修也が当てられて困ってる間にパパッと計算だけやっちまったって訳よ!」
俺は別に困ってない。だって、当てられてすぐ聞いて無かったって言ったから。正直に。困る前に。
……あ、チャイム鳴った。授業も終わり。
「きりーつ、れーい」
よし、岳殴りに行こう。
だって、何か知らんがちょっと利用されたみたいな形になってるし。
早い話が気に入らない。
あ、丁度いいところに岳の筆箱が放置されてる……あれ、岳は何処行った?
「修也ぁーこっちだぜぇ」
窓際に居た!
えい。
「えぇー、人の筆箱投げるかぁ!?」
いいんだよ、岳のだから。
あぁー、やっぱり避けられた。
そしてそのまま、岳の筆箱は、喚起のために開けてあった窓から外へ……あ。
「あーっ!? 修也テメ、何してくれるんだよ!」
「よかった、中間休みあって」
「そうじゃねぇ! いや、確かにそうだけど……ったく、何処行ったー?」
窓の外。そうじゃないか。
俺も岳みたいに窓から下見てみよう。
「みーちゃーん! 大丈夫ー!?」
「も~、誰だよ~、筆箱なんか落っことしてきたの~!」
やっべ、人に当っちゃってた……。
「ひーちゃん! 見つけて袋叩きにするよ!」
「みーちゃんの仇~!」
敵討ち? 敵討ちされるのか、俺?