309 おでんですよ
『いただきまーす』
熱っ。汁かかった。
岳だ!
今日の晩飯、おでん!
いいよな、おでん。旨ぇし、楽しいし、温いし。
食べるときあっついけど。猫舌にこの熱さは辛いぜぃ。いや、生暖かいおでんってのも嫌だけどさ。
「で、この家族だんらんの場になんで純は居ないんだ?」
「もうすぐ帰って来るわよ~。光~、こんにゃくあるわよ~」
母さん、何を根拠に言ってんだ?
あと、
「オレにもこんにゃくよこせっ!」
「ダメダメ~、これは私がもらったんだから~」
「岳ー、こっちにもあるよ。あむ」
こっちにもあるよ、で指したおでんを自分が食うってのは、オレに対しての嫌がらせか、姉ちゃんよぉ?
「…………あ、お帰り純兄ー」
え? 姉ちゃん、そっちは廊下に行くドアはあっても、まだ兄ちゃん居ねーぞ。
あ。開いた。兄ちゃん入って来た。マジだった。
「なんで分かったんだよ、姉ちゃん」
「んー、音」
気付かねーよそんなん。
「ん、おでん?」
「大根は一切れよ~。買い忘れて六切れしか入ってないの~」
「聞いてねぇよ」
……今、光が『え?』って言った。絶対コイツ、二切れ以上食ってやがる。
「純、どこ行ってた?」
「ちょっとその辺」
「どの辺?」
「この辺」
「この辺か」
父さん、なんで分かんだ?
「後で聞く」
「げ」
分かって無かったのかよ!? にーちゃんも『げ』ってなんだ!?
「骨多いなー、手羽先」
「食っちまえばいーじゃんかよ」
「後味よくないもん」
「そーか?」
いちいち出すのがめんどくせぇから、オレはでっかい骨以外全部食ってんだけどな。
「ね~、餅巾着は~?」
「こっちには入れてないわよ~。後で追加するときに入れるからね~」
「は~い~」
入ってねーのかよ!? 今までずっと必死に探してたのに! 底の方。
あ、ジャガイモあった。食お。
「あれ、おかーさん、大根ないよ? あたし食べてないのに」
「うそ!? オレも食ってねーのに!」
「おとーさんも」
兄ちゃんも卵しか食ってねーし。
「あら~、私も一切れしか食べてないわよ~?」
んじゃあ、犯人は一人だな。
『光』
「あはは~。一切れずつだとは思わなくて~」
一切れずつって言われたの、食い始めてそんなに経ってねーじゃんか!
「四切れも食べたのか!?」
「五切れだろ」
え? あ、そか、光の分もか。
「明らか食いすぎだろ!」
「出して」
「胃液まみれだよ~?」
「お食事中にそんな事言わないの~」
「ごめんなさい~、でもお姉ちゃんが~」
「だって光が五切れも食べるんだもん!」
……普段からねーちゃん、大根そんなに食わねー癖に。
「あ、大根あった! 一切れだけど」
『ホント!?』
おぉ、間違いなく大根。おでんの大根。
「じゃやっぱ四切れじゃんか、光が食ったの」
「ん。らしいな。……どっちにしても食いすぎだろ」
「えへへ~」
褒められてねーよ。照れんな
「四人で分ける?」
「俺はいいよ。三人で分けな」
おーっ! にーちゃん優しー!
「光、代わりに餅巾よこせよ」
「え~っ!?」
「餅巾は一人二つずつだから、な? 一個くらい」
……兄ちゃん、ずっこくね?
「こっちは一人一切れを食われたんだから」
「う~……」
「こ~ら~、純~?」
あー、叱られてやんの。
肩竦めて終わりにするあたり賢いかもしんねーけどさ。
姉ちゃんとかオレだったらもっと粘って余計怒られんのがオチだし。下手すりゃチョップ食らうぜ。母さんの。意外と痛い、これ。
「ん、じゃ豆腐餅貰う」
……もしかして、餅なら何でもよかったんじゃねぇの?
「じゃあ、あたしも豆腐餅ー」
よしゃ、これで大根はオレの……じゃなかった、オレと父さんのもの!
ってぇ、
「なんで父さん食ってんだよ!? オレの分は!?」
「てっきり岳も豆腐餅に行くかと……え、大根が良かった?」
うん。
「あちゃー。じゃ、おとーさんの卵あげるから、な?」
許す!