305 めんどくせぇと言って逃げるほどめんどくせぇ事に
「どうするのー、ねぇ、どうするの」
うっせぇな。
「純さん、ここで行かなきゃ男じゃないですよ」
それはさっきも聞いた。
純だ。
忍が持ってきた、と言うか持って待ってた花柄便箋の手紙。
清かそこらの悪戯かと思ったら、知ってる筆跡じゃねぇし。
「放課後って何時からだった?」
「三時半くらいかな?」
今は……四時半か。一時間経ってんな。
「まだ居るかぁ?」
「居るんじゃない?」
「居ますよ」
キッパリ言いやがったな、中森。
「……めんどくせぇけど、見るだけ見とくか」
「行くでしょ」
「どっちでもいんだよ、そんなん」
さっさと霊界に戻りてぇんだけどな……何で学校来たんだろ。
「んー、めんどくせぇ」
「めんどくせぇ病再発?」
「知らねぇよそんな病気」
ってかねぇよ。
この手紙の内容からしてめんどくせぇんだよ。
『放課後、音楽室にて待つ 二年三組 七草温海より』
何処からどう見ても果たし状じゃねぇか。
「やっぱほっとくか」
「えぇ!? 何でよ? 可哀想じゃん」
「ラブレターなんて貰っておいて、女の子待たせるなんて最低ですよ」
どう頑張って見ても果たし状だけどな、これ。
「もう音楽室行きかけてるのにー」
あ、こいつ等黙らせる方がめんどくせぇ。行こ。
『行ってらっしゃーい』
音楽室の前まで着いて来といて行ってらっしゃい? じゃあ何でついてきたんだよ。
どうでもいいか。
「ハァッ!」
ん?
音楽室に入った途端、木刀降ってきた、もとい振ってきた。
「七草さんか」
二年で名札つけてる奴、始めてみた気がする。
「高山先輩ですね……お手合わせ願います」
それ見ろ、やっぱり果たし状だった。
「そう言う事はやる前に言おうな」
入ってきた途端木刀振る奴があるか。
そういえば忍も中森に殴られかかってたな……女子の喧嘩でも流行ってんのか?
「木刀がピアノの上に置いてあります。使ってください」
「普通音楽室でやるか?」
楽器に当ったらどうするつもりだよ。
……あんまり置いてねぇけど。
「体育館は体育会系の部に使われていますので」
「だからってあえて音楽室を選択した理由がわかんねぇよ」
とりあえず、使わせてくれるってなら使わせてもらうかな、木刀。
「不意打ちがしやすいかと」
「……もとから正面から向かってくる気無かったんだな」
ほら、木刀取ろうと背中見せた途端、自分の木刀振り上げやがる。
「正面から行っても、砕けるだけです。当って砕ける気はさらさらありません」
「あぁ、正しいな。正面から突っ切って、気が付いたら手遅れかもしんねぇもんな」
「……貴方に対しては、正面からだろうが後ろからだろうが関係ありませんでしたか」
木刀取ったから、それで防いだだけなんだけど。
「あ」
「ん?」
「隙あり!」
……アホかコイツ。
「隙も何も、テメェ隙見抜けてねぇじゃねぇか」
「あは、素人でして」
急に性格が変わったな。ついでに表情も変わった。
効果音を付けるなら、キリっとしてたのがヘニャラってなった。で、そのまま蹴ろうとして来る。
「嘘です」
「はいはい。嘘吐きは泥棒の始まりだぜ」
後、短いスカートで足を振り上げるな。
「ふん、そっちはフェイントです!」
って言いながら今度は左手で殴ろうとして、
「一々口に出すもんじゃねぇぞ、フェイントのフェイントも見破られる」
殴ろうとしたのを止めたら木刀か蹴りか、どっちか繰り出される……かも。
「ん、これは本命だったか」
「止められましたか……」
違う、払った。
「木刀使う気あんのか?」
「私の武器は口なので」
「あっそ。俺帰っていいか?」
いい加減めんどくせぇ。
「逃げるんですか? たかが二年の女子相手に?」
「たかが二年の女子相手だから余計戦闘意欲が失せるんだよ」
「言い訳ですか?」
「そう聞こえるか?」
「はい」
「なら一遍耳鼻科行って来いよ」
「春にイヤというほど通ってます。花粉症で」
鼻じゃなくて、耳の方診てもらって来いって意味なんだけど。
「ん、言い合いも面倒になってきた。本当に帰るわ」
「なら私も一緒に帰ります。帰り道も面倒にしてやります」
「妹も一緒だから、そっちに相手してもら……帰ってやがる」
……相手しろと?