304 こんな訳があったんです
「忍さん、そんなところで何をしていらっしゃるのですか」
「中森さん、あなたは何故いつも敬語なのですか」
「同い年、もしくは年下だと思った人が、先輩だったり教師だったりしても感づかれないようにです」
……そんな理由があったのかー。
忍です。
放課後、四時間目の途中で消えた……と言うか出かけたと言うか……まぁ、とにかく純兄を待っています。教室で。
「で、何をしていらっしゃるのですか」
「けなげに兄を待っているのですー」
「ブラコンが居ます。どうしましょう」
「違うよー。純兄宛の手紙預かってんのー。学校で渡しとかなきゃいけないのー」
二年生の女の子から、可愛い花柄の便箋。
「忍さん、ごめんなさい。私が悪うございました。痛いのでやめてください」
拳骨腹に押し込んでたの忘れてた。
「家で渡せばいいのではないですか? その手紙……」
「放課後音楽室で待っていますって書かれてたからさー。学校で渡さないと」
「……読んだんですか」
つい。
「…………黙っててね」
「勿論です。純さんはいつ戻って来るのですか?」
勿論って言った。何でか知らないけど、勿論って言ったよ、この人。
「純兄ねー、うーん……日が落ちてから戻って来ること多いんだよなー。もー少しかな?」
「陽の光が苦手なのですか。まさか。ドラキュラじゃあるまいし」
「あり得るかもよー? 純兄だし」
「何者ですか、純さんは」
死神。って言っちゃ引かれるからー。
「人外」
あ、引かれた。似たようなもんだったか。
「人外……まぁ、そうですね。私に言わせれば二人ともそうですが」
「あら? あたしまで? 何で?」
「成績よすぎます」
知らんて。
「純兄はともかくあたしは違うよ。二年の時なんか3ばっかりだったんだから」
「良すぎます。今までのテストの最低点はいくつですか」
「え、20点」
「何点満点中?」
「40点」
「やっぱりいいじゃないですか」
ヤバい、この人切れかけてる。
「なんで? 半分だよ!?」
「半分も取れてるじゃないですかぁ……?」
漫画だったら確実に血管浮き出てるよ、十字型に。
「ちなみに、今までの最高得点は」
「40点」
「何点満点中」
「40点」
「ブッ飛ばしますよ」
「やってみろー」
って、本当に来た!?
いきなり正拳突きなんかしてきましたよ? しかも何か慣れてる風だったよ?
拳がいっぱい来たー。でもって脚も来たぁ!?
「何、格闘技でも習ってんの?」
「えぇ。六つの時から空手を」
誰か助けてー。
あたし、格闘技なんて皐月姉の滅茶無茶拳法と、文月くんに習ったこれまた滅茶無茶剣法、後おとーさんになんとなく教わったような教わってないような要は記憶に残ってない柔道しかやったことないよー。
あれ、結構やってるじゃん。
でもなー、滅茶無茶けん法はあたし初めの三か月でやめたからなー。三日坊主ならぬ三か月坊主。
同じ三でも、単位が違うとめちゃ違う。
「あら、当たりませんね。忍さんも何か格闘技を?」
「皐月姉と文月くんの滅茶無茶けん法やってたよ」
「は?」
うん、そうなるよねー。そうなるわなー。
滅茶無茶けん法なんて聞かないもんねー。
でもね、稽古、最初やるーって言ってた幼馴染連中も、初めの一か月でやめたのがほとんどってくらいなんだよー。
三か月持ったのはあたしと純兄くらいだったし。
なっくんと香ちゃんは二か月頑張ったんだけどねー。
純兄は凄いよ。あたし等よりも先に初めて、引っ越すまでずーっとやってたんだから。何年だろ、七年くらいか? きゃー。
「よく分かりませんが……お手合わせ願います」
「あたしは願いたくありませんっ!」
結局は素人なんだから!
「寸止めですから」
「いやいやいやいや。そーゆー問題じゃぁなくてね」
というか、人の話聞いてないね。きゃー、殴りかかってきたー。
「何してぇの、テメェ等」
「あ、純兄」
あー良かった、純兄が止めてくれてる。
「いえ、何でもありません」
顔色一つ変えずに嘘ついた、この人。中森怖い。
「あー、純兄、二年の子が純兄へって」
「ふーん、何て?」
「放課後音楽室へ――あ」
言っちゃった。
「ん、読んだなテメェ」
「悪気は無かったんですぅー」
「あっそ。……さて、どうするかな。万が一まだ居たら可哀そうだし」
「純さん、男なら行くべきです」
「女だったら?」
「行くべきです」
「んじゃ男ならとか付けんなや」
「そうですね」
さーて、純兄、どーするかな。