299 運
「じゃん、けん、ほい」
「だぁっ! また負けた!」
ふふん、清なんか弱い弱い。
忍でーす。
昼休み、何がどうしてこうなったのか、じゃんけん大会があたし達の中で開催されています。
……いや、ほんと、なんでじゃんけん大会なんか始まったんだろう。
「忍強いね~。負けなしじゃない?」
「やだな、桜。じゃんけんで負けなしだったら、ほかの所に運が回らないかもしれないじゃん」
これ嫌だなー。
「忍、次俺と」
「あーい、なっくんには負ける気しないよ」
だって、負けた事ほとんどないもん。何故か。
「じゃんけんほい」
「早ぇよ」
「じゃん、けん、ほい」
はい、勝った。
「…………はぁ」
「なんでそんなに落ち込むんだ。それでも男か!」
「関係あんのか!?」
しーちゃん……。
や、じゃんけんだけで落ち込むなっくんもなっくんだしな。
「高山妹」
「あーい」
「じゃん、けん、ぽん」
あい、村田にも勝った。
「強っ。女神?」
「女神小っちゃ」
おいこらなっくん、その小っちゃいってどういう意味の小っちゃい? 身長か?
「ここで運使っちゃって、忍、HR大丈夫~?」
「何かあったっけ?」
「席替え。今回はくじだって言ってたぞ」
……あ、チャイム鳴った。先生来た。
「座れー。席替えするよ」
『イエーッ!』
テンション高っ。
「という訳で、学級委員ー」
「くじなら休み時間の間に作ったよ!」
仕事が速い。影は薄い。学級委員長ナナシちゃん。
いや、名無しってわけじゃないだろうけど。覚えてないから、あたしが。
「今回はねー、くじ引きでやるけど、何処に座るかはシャッフルするよ!」
どういう意味?
「前に、座席表を描くでしょー」
はいはい、描いてらっしゃいますね。
「で、くじで引いた番号、つまり座る番号のところを、私と蔵元くんで適当に書きます! 引いた番号がどこにあるか、探さなきゃいけないけど……『うわっ、一番かよ……』なんてことにはならないよ!」
くじ引きで元々シャッフルされてるものをさらにシャッフルするの? 二段構え? 意味あるのかそれ。
悪い席ってすぐには気付かないから、落ち込むまで時間があるけど……。
「女子席は蔵元くん書いて。私、男子席書く」
「よし」
何の迷いもなくぱっぱと入れて行ってるよ、この二人。確かに迷ってもしょうがないけど。
「さーって、休み居たっけ? 田中さんだけ?」
「高山くんが居ませ~ん」
最近しょっちゅう居なくなってるけどね。
「また早退か? まったく、成績落ちるぞ」
そうかなー。
提出物ちゃんとやってるし、今日帰って来たテスト、全部95点以上だったよ。家庭科以外。
「田中さんと高山くんのは先に取っておくね」
田中さん、4番……窓側真中の席。純兄は13番で、今の真後ろの席。
「はい、じゃあ男子から! シジミくんと」
「し、な、み!」
「小浜くん、じゃんけんしてー」
あらら、紫波、完全にスルーされた。
『さいっしょはグー!』
待て。何で二人とも、最初はグーでパー出してるんだ。
「ちゃんとやれや!」
あ、蔵元に怒られた。
「最初はグー、じゃんけんポン」
「はい、じゃあ後ろからー。
という訳で、席替えが終わって。
「また前後だね~、忍」
桜があたしの後ろに。
「授業中に本が読みにくくなった」
しーちゃんがあたしの前、つまり真中の列一番前に。
「うーわ、早弁どうやろ」
しーちゃんの隣に清。
「忍、もっかいじゃんけんしろ」
あたしの隣になっくん。
「…………ぐー」
桜の隣に村田、となりました。
前の方に来るとは。本当に運、じゃんけんで使いすぎたか。
……運って使うものか?