298 高山金魚十八匹
「純兄ー、何してんの」
廊下で胡坐かいたりして。
頬杖ついて、水槽なんか眺めたりして。
忍でーす。
おとーさんが水槽を家の中に入れてから、金魚が見やすくなりました。
水槽の下には発泡スチロールの板が置いてあるから、いくら大きいからって、床に傷がつく心配はありません。
「忍、重い。首折れる」
「頭にちょっと上半身の体重かかったくらいで折れる首なら折れたほうがいいよ」
「分かった、折り返してやるから覚悟しとけ」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。首つかまないで。まだ折ってないよ?
「折れないから折り返さねぇけど」
うん、折れられても困る。
「で、何でまた金魚なんか見てんの」
「暇だから」
「受験生の言葉じゃねーぞー」
「いんだよ。テスト終わったところだし。仕事も久し振りに休みだし」
「久し振り?」
「文化祭以来の休み」
うわぉ。毎日あったの?
一週間に最低一日は休み無いといけないんだぞー。死神に人間の法律関係ないってか。
「休みで暇だから金魚見てたの」
「ん」
「ほんっとーに暇なんだね」
「だからそう言ったじゃねぇか」
うん、言ってたね。……あれ。
「パズルは?」
「気分じゃねぇ」
さいですか。
あー、金魚、泳いでる。
何かすっごい口パクパクしてる。
めっちゃ集まって、こっちガン見してる。
「忍」
「あーい?」
「うちの金魚ってがめついよなー」
「うん」
誰かが通るとするでしょ?
そしたら『エサくれー!』とでも言うかのようについて来るんだよ。もちろん水槽内でだけど。
ちょっとでも立ち止まったら、口パクパクしてガン見して来るんだから……つまり今の状態。
怖いわ。
「エサやるか」
エサの袋が入ったトレー、黒いから蓋の一部に見えたりする。
うわ、トレー取ったとたん、急に金魚が浮いてきた。水跳ねてる、跳ねてる。つべたいからやめい。
「純兄、何でそんな少ししかあげないの!?」
一つまみじゃ全然足りないよ! うちの金魚の数と食欲舐めるな!
数? 十八匹。食欲? 穴の開いたポケット。いや、流石に底なしって訳じゃ無いだろうけどさ。
とにかく、足りないよってば!
「戦争起こるよ、水槽の中で!」
「それが見たくてやってんだ」
「鬼か!」
「死神だ」
訂正されてしまった。
「死神がわざわざ戦争起こしてどーすんの。仕事増えるよー」
「いや、戦争起こすのも仕事」
訳がわかんない。
「人口調整も仕事の一つ。戦争は一気に人口減らすのに丁度いいんだ」
怖いわ、この人。じゃない、死神。
「ん、今の忘れといてー」
「純兄、エサやりすぎじゃない? 手に持ってる奴、全部入れるの?」
片手にいっぱい持ってるけど。
「ゴキ食ったこいつらの胃袋舐めんな」
「何で知ってんの!?」
あの時は天斬剣と、あたしとクロしか居なかったはず……。
「斬に聞いた」
あ、そう。
「なぁ忍」
「あーい?」
「この水槽、前にめだか居なかったか?」
……聞いちゃダメな事もあるんだよ、純兄。