295 長男長女とおとーさん
「あぁっ!?」
「どしたの、忍」
「熟柿だと思って開いたら……ちょっとしか熟してなかった」
「ドジだな。って、なんで分かんなかった? 突いたら分かるでしょ?」
「いや、完璧に熟してるのが無かったから、一番軟らかい奴を取ったら……」
まるでじゅくじゅくの熟柿ってわけじゃありませんでした、という訳です。
こういうのは皮にこびりついたのが取りにくいからもったいないことになっちゃうんだよね……。
忍でーす。
おとーさんはみかん、あたしはちょっとじゅくってなった柿を食べています。
光と岳は小学生駅伝見に行っています。修也が出るんだって。
光は……なんか、はーちゃんに誘われて。
「おとーさん」
「はーい?」
「みかん、何個食べた?」
「さぁー。初めて食べたのは何歳だったかなぁ」
誰が今までの人生で何個食べたかを聞いた。
「今日、何個食べた?」
「数えてない」
「教えてあげよっか、九個だよ?」
「知ってるなら聞くなよ」
……食べ過ぎって言ってるんだけど。効いてないし。
「そうじゃなくてね」
「まだまだこれからだな」
「何個食べる気!?」
なにが『これから』だよ!
これ以上食べたらなくなっちゃうじゃん。
「うーん、食欲の秋には抗えない」
年中食べるときには食べるじゃんか。
「もうすぐ冬なんだけど」
「あっ」
え、今更?
「クリスマスツリー出さないと」
「話全然つながってない!」
って言うか、聞く気無い……?
「んー、出しといて。クリスマスツリー」
「なんでそうなったの!?」
「クローゼットの一番上に挟まってる筈だから」
挟まってる!? 挟まってるって何!?
いっつもそういう所から引っ張り出すのおとーさんだからなぁ……。見てなかった。
「純にでも出してもらって」
「え」
「純、居たの!?」
「今来た。……なぁ、えらくみかん減ってねぇか?」
「犯人はコイツです。警部」
びしっとおとーさんを指差してみる。
「こら、父親に向かってコイツとはなんだ」「俺はいつ警部になったんだ」
ごめんなさい、と、なんとなく。
「みかん買い足しとくから、親父、金」
「え」
「えじゃねぇよ。ほとんど親父が食ってんじゃねぇか」
「ごめんなさい」
分かればよろしー。
「純、言葉遣いには気を付けよう」
「大丈夫。他人と話す時は敬語になるから」
うん、毒舌になるけどね。
「そうそう、純、クリスマスツリー出しといて」
「めんどくせぇ」
「大丈夫。クローゼットから出した後は、岳とか光とか……忍もやる? がやってくれるから」
枝開いて、飾るだけだもんねー。
『だけ』って言ったけど、一番時間かかるよね。コレ。
「ん。気が向いたらその内」
「早めに頼むよー」
あら、純兄承諾してるし。
「あぁ、釣りに行きたい」
「どっから飛び出たのその話題」
漬物石割って飛び出したような気がするよ? 何この例え。
「別に、突然飛び出したってわけじゃないよ。クリスマス釣りーから」
「…………親父、寒ぃ」
「やっぱり?」
やっぱりって思ったんならやらなきゃいいのに。
「外でやんないでよー」
「大丈夫。突っ込んでくれる人が居ない限りやらないから」
つまり、突っ込んでくれる人が居たらやるんだね。
「ふー、お腹いっぱい」
みかんの食べすぎでしょ。
「親父、腹いっぱいなんじゃねぇのかよ」
何で十個目のみかんに手ぇ伸ばしてるの。