294 麻婆豆腐にさらに辛味をつける人のお話
はぐはぐはぐはぐ、はぐはぐはぐはぐ
「・・-」
うん、大体分かったぜ。『うめー』か『うまー』だ。
「おいしーよ、おばさん」
「どっさり唐辛子やらからしやらかけて食べる人に言われてもね~」
「元がおいしくないと、調味料かけてもまずい。だからおいしーよ」
「ふふ~、ありがと~」
岳だ!
兄ちゃんの友達? の、リオンさんが、何でウチで飯食ってんだ。
『麻婆豆腐って言ったら何か来た』ってにーちゃん言ってたけど……。
「なぁ、姉ちゃん」
「ん?」
「リオンさん、髪長いじゃん」
「うん」
「くくってんじゃん」
「うん。そう見える」
「なのになんで、左右に動きっぱなしなんだ?」
「知らんがな」
尻尾みたいに見えるんだけど……。
ほら、犬とかがさ、嬉しい時に尻尾振るじゃん。
象とかもよく尻尾振ってんじゃん。
あれのごとく、後ろで一まとめにされた金髪が右へフラリ、左へフラリ……。どうなってんだ。
暖房はつけてるけど、エアコンじゃねーぞ。灯油のヒーターだぞ。
「ねぇ~、その髪どうなってるの~?」
「どう?」
「何でそんなに動くの~?」
よし、ナイス光。よく聞いてくれた。
「動いちゃいけない?」
「どうして動くの~? って意味~。それ自分の意思で動くの~?」
「うん。自分で動かす。手みたいに。ほら」
ちょろっと肩から先っぽが出て来て、ペコリ。
「コンニチハ」
『こ、こんにちはー』
今のは腹話術だな。もろ自分の口で話してたし。うん。
「リオ、日本語では今の時間、こんばんはと言う」
「分かった。コンバンハ」
『こんばんはー』
何で律儀にやり直すんだこの人。
「それ、何なの? しっぽ?」
「えーっと……純、約してくれない? ・・・って言うんだけど」
「頭尾でいいんじゃねぇの」
投げやりだな兄ちゃん。
「とーびって頭に尻尾の尾~?」
「ん。多分そんなん」
多分って。
「リオンくんは何処で日本語覚えたの~?」
なぁ母さん、何麻婆豆腐に蜂蜜入れようとしてんだ。合うのか? 何か色的に合いそうな気がしないでも無い事無いけど、辛いのに甘いの入れてどーすんだ。
「日本語は純から教わったよ」
「大変だったでしょ、純兄が先生じゃ」
「うん」
素直にうなずくなよ、おい。
「なんで日本語覚えようと思ったの~?」
「純が、学生時代に「今も学生だぜ」……死神学校生徒の時に」
言い直した。
「学校で、日本語の何かを書いている事があったんだ。その文字見た時に、日本の文字って綺麗な形してるなって思ったから」
動機結構単純なんだな……。
「日本語も話してもらったら、そっちにも引かれた。それで教えてもらって……で、飽きることなく」
今に至ってます、と。
「先生に日本語教える死神も居たのにな」
「分かりにくかったから」
先生としてだめだろ、それ。
「純兄は何を書いてたの?」
「今読み返しても分からんもの」
「どゆこと?」
「字が汚すぎて全く読めねぇ」
「え、あの文字、汚かったの?」
あー、あれだ。
見る人が違えば同じモンでも全然違う風に見られるんだな。