293 直前まで気付かなくても思い出しただけいいと思う
「……ゆうちゃん」
「何?」
「大変な事に気付いてしまった」
「何よ」
「明日から期末テストだ!」
「そうだった!」
今まで何の勉強してたんだこいつ等。
純だ。
三年四組の教室。こいつ等が異常なほどに集中して勉強するから、書類仕事する分にはちょうどいいと思って、俺も使ってるんだけど……今日から。
何で死神に書類仕事があるかな。色々たまってんだよ……報告書とか報告書とか報告書とか。溜めるもんじゃねぇな。うん。めんどくせぇ。短期間に色々やりすぎた。
「ゆうちゃん、落ち着こう。落ち着いて過去に戻るにはどうすればいいか考えよう」
「あなた全然落ち着いてないじゃない」
「うん、わざと」
「……余裕あんじゃないの」
二年の時なんかテスト勉やって無かったからな、完全に。
「ほら、明日テストでしょ。明後日明々後日は休みだから、二日目と三日目の勉強は休みの日にできるじゃん」
「……明日、何のテストだったかしら」
「…………じゅーんにー」
覚えてねぇのか。おい。
「理科、保健体育」
「あ、じゃあ大丈夫かなー」
「と、社会」
「ピンチ!」
変わんの早ぇ。
「社会なんか覚えるだけでしょ? それより問題は保健体育よ!」
それこそ覚えるだけじゃねぇかよ。
「そうね、問題は理科よ」
こっちも変わんの早ぇ。
「理科も大概覚えりゃ済むだろ」
「なんでそうなるのか理由を聞く問題があるじゃないの。ああいうのは理解しないと覚えられないわよ」
もっともな事を。
「純兄ー、社会のワークか何か持ってない?」
「テメェはノート読み返すところから始めような」
「あいあいさー」
素直だな。
「純、これ教えて」
ワークシート……なんでしっかり持ってるんだ、ゆうちゃん。本名聞いてねぇ。忘れてるだけかも知らんが。
「……細胞分裂の何が分からんのか分からん」
「だから、どうして細胞分裂はこの順番で怒るのかが分からないって言ってるでしょ」
一回も言ってねぇよ。
「核の中に細胞質が出来て、それが一列に並んでから二つに分かれて、壁が出来て核が出来て終わりだろ」
「なんで?」
そこで『なんで?』とか言うな。
「生物学者にでも聞いて来い」
「分かった」
……分かった? 生物学者に知り合いでも居んのか。
「じゃあ、黒点はどうして黒く見えるの?」
「太陽の周りのよりも温度が低いからだろ」
「なんで?」
「太陽にでも聞いて来い」
「分かった」
分かるなよ。
「太陽の所へ行くにはどうしたらいい?」
童話にでもありそうな質問だな。んじゃ、
「ペガサスにでも乗ってけ」
「落っこちる自信があるわ」
いらねぇよそんな自信。
「なんでオリオン座は冬の星座なの?」
ただ覚えるだけじゃ駄目なのか、それ。
「巨人オリオンはさそりに刺されて死んだから、さそり座が出て来る夏の間はビビって空に居られねぇんだよ」
「なんでそこに神話を持ち出すのよ」
一番手っ取り早いかと思って。
「大体、巨人オリオンを倒したさそりが、調子に乗って暴れ出したらどうするのよ」
そこか?
どこに巨人倒して調子に乗るさそりが居るんだよ。……居そうだな。そんなさそり。
「さそり座が暴れ出したら、隣にいるいて座が射殺すんだよ」
「あら、そこまで考えてあるの」
考えるとか言ってやるな。神話なんだから。
「じゃあ、しし座とぺガスス座は、なんで春と秋の星座なの?」
「その季節に一番明るいからだろ。オリオン座とさそり座も同じ理由」
「……面白くないわ」
面白くする必要ねぇだろ。
「純兄、1999年に改正されたのって、何法!?」
「……多分、地方自治法って答えてほしいんだろうけど?」
でもそれ『問題です、何でしょう?』って言ってるようなモンだぞ。