291 これもある種の集団行動
「……はぁ」
「玲奈さん、溜息ばかり吐いていると幸せが逃げますよ」
「美香っ! あたしがいつ溜息ばかり吐いたのよっ!」
「今日だけで二十四回ほど」
中森、数えてたんだ……。
忍でーす。
食べると眠くなるよね。
そういうわけで、お弁当を食べ終わったあたしは机に突っ伏して寝ようとして、でも寝付く事が出来なくて目を閉じてるだけの状態です。
……こんな状態だと午後の授業がつらいんだよなぁ。でも起きたくないなぁ。
「てい」
痛い。
「桜ー、実況してー」
「篠の、むぐむぐ、チョップがあむ、忍の背中に落っこちんぐっ」
ごめん、口に何か入ってたんだね。
うん、まだご飯中の人何人か居るもんね。
「しーちゃん、何でチョップしたの」
「理由は無い」
酷い。
理由無いのにチョップされたんだって、あたし。
「し……忍っ!」
「はーい?」
今度は玲奈かぁー。純兄関係だな。
……たまにさぁ、玲奈が純兄のこと口にすると、嫉妬してるような目線が来ることがあるんだ。何でだろう。
「もう、思い切って聞くわよっ!」
はい、どうぞ。
「えと……あの……その……じゅ、純の、あの、うん」
全っ然思い切って無いじゃん。
「し、忍の好きなタイプってどんな人っ!?」
あぁ、純兄の好きなタイプ聞きたかったんだね。
いきなり聞くのは気が引けたから、あたしのところをスタート地点にしたんだね。
「玲奈さん、昼休み中に本題までたどり着けますか?」
「つ……着けるわよっ! べ、別にそんなに恥ずかしい事じゃないしっ!」
本人がここに居たらけっこう恥ずかしいと思うけど。純兄居なくて良かったね。何処行ってんだ、この不良兄貴。
「で、忍のタイプって、どんな人!」
何か問い詰められてる状態になっています。
「何であたし?」
分かってて聞くあたしってやな奴? いやいや、これですんなり本題に入ってくれるかもしれないじゃんか。
「純と好み被ってるかもしれないからよっ! 別に、気になってなんかないんだからねっ!」
そういう割にゃ、すっごい身乗り出してるけど。
「純兄のタイプ言えばいい?」
「ウェルカムよ!」
素直だな……。
やー、でも良かった、好きなタイプって言われてもあたし答えられないからね。分かんないから。
「んっとねー、純兄の好きなタイプは……」
好きなタイプ……好きなタイプ……? 純兄の?
知らんわ。
「ごめん、あたしも知らなかった」
「何でよっ! 兄妹でしょ!?」
「兄妹だって知らんもんは知らんのじゃ!」
怒鳴られたので怒鳴り返してみました。
「うっ……う、海中!」
「あぁああああ! ラスク失くしたぁああああっ! まだ食ってなかったのに」
ラスク? 購買の? 失くしたって……。
「海中! ラスクはどうでもいいから、純の好きなタイプ教えなさいっ!」
あれ? 恥ずかしがってたのがウソのよう……と思ったら。
「はい?」
「……ぁ」
顔赤くして走り去ってしまいましたとさ。何やってんの。
「玲奈さん!」
あ、中森が追いかけてった。あたしも行こ。
「あたしも行く」
しーちゃんがついてきた。
「じゃあわたしも行こ~」
桜がついてきた。
「何か知らんが俺も行こ」
なっくんがついてきた。
「じゃあ俺も」「私も」「え? 何?」「次移動教室だっけ?」
何かいっぱいついてきた。
……皆、暇なんだね。
「何あれ。おまんの学校、変な奴多いんじゃなぁ。一人の女の子クラス全員で追っかえるなんざ、聞いたこと無いで」
「安心しろ。俺も始めてみた」
「……どっか安心するとこあると? それ」
純だ。
目の前を玲奈が走って行ったかと思うと、忍含めクラスの奴等が追いかけてきた。
「あれ、元凶純兄」
「何が起こってるかもわからんのに元凶にされてたまるか」
「安心せぇ、お前は全ての凶事の元凶じゃ」
俺、大物だな。
「純兄、一個聞かせて。それでこの集団止まるから。回答によっちゃ暴走するかもしれないけど」
はぁ……。
「何だよ?」
「純兄の好きなタイプってどんな子?」
そんなことで走り回ってんのかこいつ等。
「はーやく答える!」
「一緒に居て落着く人でいいや」
「『でいいや』? ……玲奈は入る?」
「いや」
あれは『変わった娘』だな。
「即答か!」
「そもそも好きなタイプっていわれてもピンと来るわけねぇだろ」
「うん、すっげー分かる」
「そうか。じゃ、関係ねぇけどこの集団止めて来い」
「努力しまーす」
努力するだけか?
聞く前に行きやがった、忍の奴。
「なぁ純、玲奈ちゃんに会ったりよ?」
「何で?」
「……よぉ分からんけど、あの娘応援したなったけぇ」
『よく』どころかサッパリ分からんけど。
「ほら、今すぐ実体化して」
「今日は霊体の気分なんだよ」
「何それ? そんな気分あんのけ?」
俺はある。
……ほら、人間の誰かに見つかったらめんどくさい事になりそうな日。それが霊体の気分の日だ。