290 この時の空は赤かった
「ねー、ゆうちゃん」
「何ー?」
「寒い」
「うん、私も」
忍でーす。
くっちゃくっちゃ、ゆうちゃんに貰ったガムを噛みながら、ゆうちゃんと一緒の帰り道です。
完全下校過ぎるまで、ゆうちゃんと一緒に学校残って勉強してました。
ゆうちゃんと一緒だったら、勉強がはかどるの何の。
想像してみ?
あたしとゆうちゃん以外誰も居ない教室で、シーンとした中、シャーペンの音だけ響いてるんだよ?
集中するより他ないでしょ? こんなの。
教室に入ろうとしてドア開けた人も、ちょっと入るの戸惑ってたよ。
「ねー、ゆうちゃん」
「何ー」
「七つの子歌って」
かーらぁすー、何故無くのーって奴。
「えー」
「じゃあ何でもいいから童謡歌ってー」
ゆうちゃん、歌上手いんだよ。
そりゃーもう、某子供番組の歌のお姉さんやれるくらい。
……や、ゆうちゃんが一番上手いのはしっとり系だから違うかな。
「じゃあねー……とーりゃんせー、とーりゃんせー」
何であえてとおりゃんせ?
何でわざわざ怖い奴? 好きだからいいけど。
「こーこはどーこの細道じゃー」
あたしがつい最近見つけた近道になる細道です。
この道を抜けたらあら不思議、水ヶ丘小学校の前に出ています。家はすぐそこ。
「怖いながらもとーおーりゃんせーとーりゃんせー」
「ぱちぱちぱちぱちー」
「何よ、そのわざとらしい拍手の音」
手ぇ叩いてないから拍手じゃないと思うけどね。
「んとね、わざとらしい拍手の音」
「なるほど」
ゆうちゃん納得したー。
「ゆうちゃん、ガムの味って何で帰り着く前に無くなっちゃうかな」
「それはね、ガムの味が無くなったらすぐ次のが欲しくなっちゃうような人が、すぐに食べつくしてまた買いにくるようにお菓子メーカーがしくんでるからよ」
聞いた事無いよそんな話。
「このお話はフィクションです、実際の人物、団体、事件とは何の関係もありません」
「分かってるよー」
「忍だからちょっと不安になって」
ゆうちゃんはあたしを何だと思っとるんだ。流石に分かるよ。
「……あれ?」
「どしたの?」
「修くん」
修くん?
ゆうちゃんが見てる方は……あたしん家だ。
岳が、帰るらしい友達三人組を送り出してるトコだけど……あ。
「修也のこと?」
「えぇ。修くーん!」
「あれ? 夕菜ちゃん」
あ、そっかー、修也もゆうちゃんも、名字風上だもんね。
「親戚か何か?」
『は?』
……ゆうちゃんと修也にハモって言われました。
「だって、二人とも名字同じだったから……」
「違うよ、忍さん。俺は風上」
分かってるよ。岳から聞いたから。
「忍、私は風見よ?」
…………え。
「うそん?」
「って、今まで分かってなかったって事の方に、私が『うそん?』よ」
うーん『か』一つの違いか……。
「何でそんなややこしい名前してんのさ」
「文句言ってもどうしようもないでしょうに」
分かってて言ってんの。
「親戚じゃないんだったら、何で知り合いなの?」
「なんでって」
いや、ちょっとした好奇心。
「家が隣なの。団地の三棟の、四〇一と四〇ニで」
ふーん。
「だぁあああっ、何でグーなんか出すんだよ、翔!」
「ジャンケンは運が全てだぞ、岳!」
「うわぁ、お前に運で負けたくねぇー」
「酷いなおい!」
さっきからこの二人何してるんだろう。
ジャンケンは癖が全てでしょ!
……違う?