289 皆様の誕生日
「はーちゃんお誕生日おめでと~!」
「おめでとー」
「ありがとぉ!」
……リビングで何か始まりました。
そうかー、今日はーちゃん誕生日だったっけ。きれいさっぱり忘れてた。
光、はーちゃん、美代が囲んでるミニテーブルの真ん中には、光&美代作の、秋の果物ケーキが。
昨日、光が色んなレシピ漁ってたのはこのためなんだね。今までレシピなんかちゃんと見た事無いくせに。
忍です。
妹三人組がケーキを美味しそうに食べてるのを見ながら、あたしは台所でリンゴ丸かじりしています。
何かよく分からないけど何かの差を感じる。リンゴ美味しいからいいんだけどね。決して負け惜しみじゃない。だって負けてないもん。
「はぁー、いいなぁ、春は」
「おわぉ。なっくん、いつから居たの?」
突然隣に現れましたが。あれ? 今日は塾ないの?
「今来たんだよ」
「へぇ。で、なんで『いいなぁ、春は』なの?」
「だってさぁ……当日に友達に祝ってもらえるじゃん?」
…………あたし等が誕生日忘れてたの根に持ってるんだ。
まぁあああだ根に持ってるんだ。三か月も前の事。
そりゃあね、あたしも純兄も、なっくんの誕生日忘れてたのは悪いと思ってるよ。いくら8月26日なんて覚えにくい誕生日だからって、忘れてたのは悪いと思ってるよ。
でもせめて、25日だったら覚えられてたと思うよ。きりいいから。多分。
5ってきりのいい数字に入るのかな? どうなのかな。あたしはきりいいと思うけど。
そんなことより。
「なっくんさ、あたしとか純兄とかの誕生日って覚えてんの?」
「そりゃぁ……俺はお前等みたいな薄情なんとは違うからな」
む。
「じゃあ、あたしの誕生日は?」
「3月21日。覚えやすいことこの上ないや」
321だもんねー。そりゃ覚えやすいわ。
「純兄は?」
「4月22日。忍の一か月と一日後」
む、4月21日って言うかと思ったのに。
たっまぁーに、あたしのきっかり一か月後が純兄の誕生日だって間違える人が居るんだ。
「岳は?」
「10月6日」
おぉ凄い。あたしでもたまに忘れるのに。
「光は?」
「1月23日」
覚えやすいよねー、123。12月3日でも123だけど。
「どうだ!」
「まだ続くよ。うちのおかーさん」
「えぇ!? 凛ちゃん? ……1月4日!」
正解。凄いなこの人。
「秋ちゃん!」
「母さん? 今日だよ」
へぇー、そうなんだぁ。
「冬くん」
「今度は父さんかよ。2月3日」
節分……。
あー、そういえば、小っちゃい時に、冬くんが『毎年毎年、誕生日プレゼントは鬼の役なんだ……』って、おとーさんに言ってるのを聞いた事ある。
そうそう、それでちょっとかわいそうになったから、次の年から豆投げつけるのはおとーさんだけにしてたんだよね。
「うちのおとーさんは?」
「6月6日」
今年は誕生日プレゼントに修学旅行のお土産をあげました。
お土産とプレゼント一緒にされてほんの少し微妙な顔してた。
「それにしても、よく覚えてるね、なっくん」
「まぁな」
「物はすぐ失くすくせに」
「余計なお世話だ!」
全然余計じゃないよ。だって、貸したもの帰ってこない可能性があるもん。
「なっくんが失くさなかった、他人からもらったものってさ、そのサメの歯のペンダント位なもんじゃない?」
桜からもらったお土産の。純兄が被害にあった、あのペンダント。
「そりゃあ……首にかけてるもんそうそう失くさねぇよ」
「それを失くすのがなっくんでしょ」
「俺はいったい何モンだよ」
え?
物を失くす天才以外の何なの?