286 猫探しの四人組+α
「だ、か、ら! 七海が居なくなったの!」
「だ、か、ら! 七海って誰だよ!」
「猫だってば! 黒猫! 昨日の朝起きたら居なくなってたの!」
耳が痛いからもうちょっと静かに喧嘩してくれないかな……。近所迷惑だし。
修也だよ。
奈那子の飼ってる猫、七海が居なくなったんだってさ。
探すの手伝ってって言われて、近所探してるんだけど……岳は今まで何探してるのか分かってなかったみたいだけど……分かってるのは、オスの黒猫って事だけ。
首輪すら付けてないんだって。
「猫ぉ? どんな?」
「オスの黒猫だってばぁ! 本当、何聞いてたの?」
「虫の声」
鳴いてねぇよ、虫なんか。
「猫探してるんだったらさー、うちの姉ちゃんに頼んだ方が、猫使って探せるから楽だぜ?」
猫操れるのか? 岳の姉さんならやりかねない。あれ、岳の姉さん何者?
「姉ちゃん猫の知り合いめっちゃ居るし。猫と話せるし」
本とに何者。
「行こ! 今すぐ行こ!」
「中学生ってもう帰ってるの? ねぇ岳」
「翔、今隣を中学生が通ったんだけど気付かなかったのか?」
きゃいきゃいしながら、女子中学生ご一行が通ったな、確かに。
「姉ちゃん、最近学校に残る事多いからなぁ。帰ってねーかも」
「でも、行ってみる価値はあるでしょ! 行こう!」
……奈那子ん家の近所だから、岳ん家に行くとなると学校挟んで反対側……。自転車で来てよかった。
「オレん家まで、誰が早いか競争な!」
「ダメだよ、岳。自転車は車の一種なんだから、事故起こすかもしれないでしょ」
翔……車道に飛び出したりしたら危ない、とかじゃなくてそっちが先に出てくるんだな。
「忍? 帰ってねっすよ」
誰この人。
髪ちょっと茶色い。絶対染めてる、この人。
「えー、マジで?」
「マジっす。お友達で?」
『こ、こんにちはー』
「岳、この人誰?」
翔、普通そういうことは本人の居ない所で聞かないか?
「龍城さん。元警察で、現在暴力団の一人らしーぜ」
何があったんだろうこの人。
そして何でこの人小学生相手に敬語……かどうかはともかく、そんな言葉使ってるんだろう。
「龍城さん、猫知らねーか? オスの黒猫なんだけど」
「あぁ、三匹くらい目の前を通り過ぎやしたね」
呪われてるのか、この人。
ほら、黒猫が目の前を通り過ぎると不吉だとか言うじゃん。
「カラスが頭の上に止まるわ、目の前でおっさんのはいてた下駄の鼻緒が切れるわ。んなこたともかく、黒猫がどうかしたんですかい? 魚でもとられやしたか」
この人、これからどんな不幸に見舞われるんだ。
「違うよ! あたしが飼ってたんだけど、居なくなっちゃったの!」
「飼った猫ですかい? それとも、拾ったか、貰ったかしやしたか?」
「拾ったの。段ボール箱に入れられて放置されたから……」
最初に聞いた時、本当に段ボール箱に猫入れて捨てる奴居るんだなーってちょっと感動した。
「ふんふん、ちょっと来てくだせぇ」
それだけで分かったのか!?
……来てくだせぇって言って、何で龍城さんバイクに乗んの? 何で普通にそのまま走り出してんの?
ついて行けるかぁっ!
「あ、すいやせん」
気付くの早くて助かった……。
「コイツじゃないっすか?」
連れてこられたのは、第二水ヶ丘高校の正門前。
段ボール箱に入った黒猫が、帰るために出てきた高校生にチヤホヤされていた。
「にゃぁ」
『かーわーいーいー!』
「ほら、鮭の皮食べる!?」
「はい、ミルク!」
「チョコレートどう?」
猫にチョコレート食べさせちゃダメだろ。
「七海ちゃん!」
「にゃっ」
あ、七海、高校生の間に逃げた。
「……七海って、奈々子さんから逃げたんじゃ」
言ってやるな、岳。