283 二度めまして 捨て猫です
今。
とある住宅街に、ダンボ―ル箱が置いてあった。
中には、緑色のつぶらな瞳をした子猫が一匹。なんかどっかで見たことがある。
しかし、今回はまだ猫が居る。
赤い目をした、緑色の目の猫よりも二回りほど小さな子猫も一匹。
さらに、黄色い目の、緑目の猫とほぼ同じ大きさの子猫も一匹。
さらにさらに、青い目をした、黄色い目の猫と同じ大きさの子猫も一匹。
彼らの目的は、いったい何だ!
「きゃぁっ! かーわいー!」
学校帰りなのであろう、真っ赤なランドセルを背負った女の子が、猫を抱き上げた。
一気に四匹。
「あっ!」
一匹や二匹落ちてもなんら不思議ではない。
女の子の腕から落ちた赤目と黄色目は、ちょっと不機嫌そうに毛を逆立てた。
「ごめんねっ! あ、すぐ戻って来るから動いちゃだめだよ!」
そう言って、女の子はすぐ目の前の『古閑』と表札に書かれた家へ駈け込んでいく。
どうやら、そこが彼女の家らしい。
「ただいまーっ!」
玄関は開けっ放し、靴をそろえることなくバタバタと家の奥へ走っていく女の子の背を見て、猫達は……
『にゃむ』
何もしなかった。
そんな事より、今は目の前に、どこかの親切な主婦がお供え、もとい恵んでくれた鮭があるのだ。
お昼ご飯に出したそれを息子が食べてくれなかったから捨てようとしたところに、猫が段ボール箱に入っているのを見つけ、ちょうどいいと思って残飯係を任せたわけではない。多分!
「にゃ」
緑目は言った。
これは自分に供えられた鮭だから譲らない。
緑目は、前にもいろいろ供えられたことがあるのだ。
揃いも揃って、食べ方が分からなかったり、そもそも食べ物だという事すら分からないものもあったが。
だから今回も、これは自分に供えられたものだと主張している。
『にゃぁ』
赤青黄目は言った。
どうぞ。
そういう訳で、緑目は遠慮なくピンク色の鮭をいただいた。
「猫ちゃーんっ! いいって! いいって! あたしの家で、君たち飼ってもいいんだって!」
赤青黄目の目が光ったのは気のせいだろうか?
駆け戻ってきた女の子は、段ボールごと四匹を抱え上げて、よろめきながら家へ戻った。
緑目は酔った。
青目も酔った。
黄目は少し酔った。
赤目は酔う前に寝た。
「うーん、何か名前付けないと」
リビングに段ボール箱を下した女の子は、猫を見つめて呟いた。
猫たちはみんな揃いも揃って真っ黒な色をしていて、違いは目の色、赤目だけは少し小さい、という程度だ。
「まず、この子はチビだよね」
将来大きくなったらどうしよう、という悩みは、その時になったらデカって名前にしようという事で自己完結した。
チビと名付けられた赤目は寝ている。
女の子の体温が気持ちいいらしい。
「うーん、この三匹はパッと見全部同じだからなぁー。ねぇ、こっち向いてー!」
宵から復活し、残った鮭を再び食べ始めた緑目を除いた二匹が振返った。
「よーし! この子はムシ!」
無視したからムシ。
この女の子の頭はとても簡単な作りになっているらしい。
「問題はこの二匹か……」
少し考えた後、女の子は片手を差し出し、言った。
「お手!」
黄目は反応してあげた。
「じゃあ君、オッテね! 最後の子は七海ちゃん!」
なぜ青目だけ普通の名前で、なぜ青目だけちゃん付けなのか。
そこに突っ込む猫はいなかった。
だって、僕らオスだもん。ちゃんづけヤダもん。
というのが、緑、青、寝ているがついでに赤目の主張だった。
真夜中――
「よぉ、天斬剣。もうかるか?」
以前、緑目が色々供えられているのを見て、仏か何かかと首を傾げていた少年が現れた。
すると、緑目以外の猫がとんぼ返りをして、なんと、幼児の姿になった。
「捨て猫ってあんまもうかんないや」
「うん、だろうな」
「オレ、捨て猫止めた!」
「私も」
「……俺も」
そして、次の日の朝から、女の子は自分を裏切らずに段ボールに残ってくれた緑目に七海と名付けて可愛がった。