281 月といっぱい
こんばんは。
月です。
……えぇ、地球の周りをまわってるあの月です。
英語でムーン、ラテン語でルーナ、サンスクリット語ではチャンドラと呼ばれるあの月です。くどい?
今日は、月の一日をご紹介します。
地球の周りをまわります。ぐるぐる。
えと、……月の内側をご紹介します。
月の内側にはですねぇ、地球人が私の、暗くて平坦に見えるところ……海って言われるらしいです。を見て、想像したものが住んでます。
ほら、月の模様見て、日本って国では餅をつくウサギを想像しているんでしょう? そんなのが住んでいるのです。
「アッサラーム アライクム!」
アラビア語のこんにちは、ですね。
吠えながら言われるとちょっと怖いです。
アラビアでは吠えるライオンに見えるらしいです。現れたときはそりゃーもう、私がびっくらこきましたよ。だっていきなり吠えるんだもん。
寝るときは静かなのにねぇ。
「ブオン ジョルノ」
こちらは南ヨーロッパで生まれた、はさみの大きなカニ。今日はイタリア語のようです。気分によって南ヨーロッパの言語を使い分ける、面倒な子です。
はさみの、右と左のバランスが滅茶苦茶悪いです。左大きすぎます。
それはともかく、歌上手ですよ、特にイタリア民謡。
サンタルチアとか、帰れソレントへ、とか。
どこから月中に響く歌声を出しているのかは不明です。
「ラバ ディアナ」
リトアニア語であいさつしていただきました、東ヨーロッパの、横を向いた女性です。愁いを帯びた表情が何とも言えません。
はっきり言いましょう。とても美人です。声もきれいです。
どこから見ても横顔なのがとても怖いのですが。
「…………」
シカトされました。
北ヨーロッパの、本を読むおばあさんに完全にシカトされました。
彼女は今持っている本に夢中のようです。作者は……ルソー? はい、誰かは分かりません。
いえ、本当は、さっきまであいさつされていたのが不思議だったのです。だって私、月ですから。彼らの立っているところは、私の内側ですから。見えますが生きているとは思っていないでしょう。
「グーテン ターク」
ドイツの、薪を担ぐ男です。彼が薪を下したところを私は見たことがありません。
彼曰く、『薪を下ろしたらただの男だ!』だそうです。
ちなみに、彼があいさつしたのは……。
薪です。
「~~~~♪」
あ、向こうからやってくるのは、スカンディナヴィア半島の、水をかつぐ男女ですね。
何か民謡を歌っています。
足取り軽く、スキップをしながらやってきま……あれ?
足取り、かなり重いです。スキップどころじゃありません。
水が重いらしいです。
休憩という事で、水を置きました。薪を担ぐ男のように、『水を下ろしたらただの男女だ!』と言う気は無いようです。
「こんにちは、お餅はいかが?」
すぐそばで餅つきウサギが餅をついていたようです!
出来立てほやほやのお餅を、月の内面にへたり込んでいる二人に差し出します。
苦労して作ったお餅を、惜しげもなく人に上げるとは、何て優しいんでしょう。
『ヴァ サードゥ? (何て言ったの?)』
言葉は通じなかったようですが。