279 たまにはこの子たちも
『たけにゃんが最近僕の事ほったらかすんだ』
『あぁ、竹の癖に俺らのこともほったらかすんだ』
『むっ、たけにゃんは竹じゃない!』
『わかっとーわ、そんくらい』
モデルガンだ。
隣で転がってる黒い鉄砲はBB弾、話してるのはダーツだぜ。
『はぁ~っ、いいなぁ、ウサギ人形ちゃんは』
『俺としてはラビットの方が好みだな』
『えぇっ!? モデガンってば何言っちゃってんの!?』
モデガンってモデルガンの『ル』しか略せて無いよな、とは言わないで置こう。
『おもちゃの声は心の声なんだからまる聞こえだよ!』
『わざとだ』
『そなの?』
この俺が、ニン婆のような過ちを犯すわけがないだろう。買われてからまだ三年だぞ俺は。
『モデルガンさん、ニン婆とはまさか私のことではありませんよね?』
ニン婆の名前はニンジンとさつま芋の甘煮だ。
『私ですかっ!』
他に『ニン』がつくのは精々ままごとセットの中のにんじんくらいだ。でも、あれはニン爺だな。
「くぁー、ねむー……あん? こんなとこにダーツ置いてたっけか?」
『ギクッ』
自分で来たもんな、ダーツ。わざわざ階段登って。
人間だったら多分いき切らしてたな。だって、階段ってダーツから見たらかなりの大きさになるぞ? おはじきから見た方が大きいだろうがな。
『そりゃぁもう! 大きいのなんの! まっ、跳ねて登るけどねん』
……片付けられてる袋から出られないのか? いつも出てくる破れ目がつくろってあるし……。
『正解っ! 光ちゃんがつくろっちゃったんだよねーっ。良かれと思ってやったことがおもちゃにとっては障害にーっ! あぁ、何ということでしょーっ!』
やかましい。
声も充分やかましいが、何より袋の中でじゃらじゃら暴れてるのがやかましい。
「んだぁ? 歩ルターガイスト現象って奴か? ってか、おはじきオレのじゃねーんだけど」
『しまった! 岳が居る事忘れてたよっ!』
記憶力悪いな、ダーツ。 頭がぺらぺらだから仕方ないのか。
『アホだな、テメェ等』
何純の机の上から見下ろしてんだよ、ルービックキューブ。てめぇは威張ってんのか?
『しゃあねぇだろ、ここに置かれてるんだから』
『じゃあ落ちて来い』
『普通下りろって言わねぇか?』
じゃあ下りろ。
『俺がこの机の真ん中から急に机の端まで行って下りたら明らかに不自然だろうが』
じゃあ下りろって言えとか言うんじゃねぇよ。
『ちょっと間違いを正しただけだろ』
落ちろ、は間違いじゃないと思うんだがなぁ。
『ぶっちゃけ間違っては無い。何かそういわれるのがイヤだっただけだ。俺が』
結構自己中だなルービックキューブ。わざわざ『俺が』って付け足すか、普通。
『……ねー、僕が『いいなー、ウサギ人形ちゃんは』って言った理由まだ聞かれて無いよ?』
『聞いて欲しいなら聞いて欲しいと言え』
『そんなの言えるわけ無いじゃん! 恥ずかしい!』
堂々と恥ずかしいって言えるなら言えるだろ。
『なぜなんですか?』
『あぁ、ニンジンとさつま芋の甘煮さん、今まで陰でおばーちゃんとか言ってごめんなさい』
『言ってたんですか!?』
気付いてなかったのか、ニン婆。
たまに陰でなくても言ってたぞ?
『もう聞きません!』
『あぁああああ! ごめんなさい!』
『いいですよ』
許すの早っ!?
『せっかく謝ってくださったのです、ここで許さなくてどうするのですか。話がめんどくさくなるだけです。で、なぜウサギ人形さんが羨ましいのですか?』
『うん、あのね、ウサギ人形ちゃん、いっつも光ちゃんに構ってもらえるでしょ?』
『えぇ』
『だから、羨ましいなーって! 僕もたけにゃんと寝てみたい!』
無理だろ。
『何で!』
『だって、お前、ダーツだぞ?』
『そうだよ!』
『太っとい針付いてるんだぞ?』
『そうだよ! 僕は磁石とは違うのさっ!』
『寝てるうちに刺さりそうで怖いから絶対俺が持ち主なら一緒に寝ないな』
『うわぁあああん!』
おい。強引に布団に潜り込むな。危ないから。