278 カビパン ピザパン 蜂蜜パン
「あ~っ!」
「どうしたの~?」
「パンにカビが~!」
「えっ!? あたし、明日の朝ごはんパン食べるつもりで胃袋準備してたのに!」
胃袋がどんな準備をすんだよ。
純だ。
俺はまだ飯食ってんのに、なんで目の前でカビ付きパンを取り出すかな、うちのお袋は。いや、そんなつもりは無かったんだろうけど。
でもってカビ付きパン見たくらいで食欲なくなることはまずねぇけど。
「お~、カビだ~」
「……あたしの朝ごはん~」
食うなよ?
「これは大分前のよ~。明日のパンはあるから大丈夫~」
「んじゃいいや」
あっさりだな、おい。
さっきまでカビ睨みつけてたくせに。見えにくくて目を細めてるようにも見えたけど。
「これ、いつのパンだよ。母さん」
「ホームベーカリーで作った奴だから分かんないの~」
まず残ったのを放っとくなよ。
「カビを顕微鏡で見てみよう~!」
なんでそうなった。
「純か忍か岳~、顕微鏡持ってきて~」
……進○ゼミのふろくな。同じのが三つある。
見やすいし、使いやすいからいいんだけど。それなりに気に入ってるし。
使いどころが少ねぇのが残念だな。
「ほい、顕微鏡」
プラスチックのプレパラートにちょっとカビを乗せて……。
「わ~、菌糸だ~」
「そりゃ、カビだもんねー。あたしにも見せて」
なんでカビの観察が始まってんだ?
「なんかオレ、パン見てたらなんかパン食いたくなった」
パン見てたらって、カビパンだろ? 普通逆じゃねぇか?
「母さん、パン食っていい?」
「いいわよ~」
「よしゃ! ピザパンしよっ!」
……ケチャップとチーズしか乗ってねぇのはピザパンと呼んでいいのか? 野菜か何か乗せろよ。
「私もパン食べたい~!」
「光は晩御飯食べちゃいなさい~。そしたらいいから~」
「……は~い~」
よかったな、光。今日はトマトが無くて。
「ねぇ、カビってどんな味がするのかな」
「忍、食うな」
「食べてないよ! どんな味がするのかなって言っただけで!」
食いそうじゃん、発言が。
「ね、どんな味するの?」
「食えば? 少しなら腹壊す程度で済むはず」
「じゃ、食べよう」
「本気で食うな」
「食えって言ったの誰だよ!」
食えとは言ってない。ちょっと進めただけで。『食えば?』って。
言い合いになるのめんどくせぇから言わねぇけど。
「お母さん~! 全部食べたからパン食べていい~?」
「いいわよ~。この最後に一粒だけ残ってる可哀そうなお米ちゃん食べたらね~」
光からはちょうど死角だし、見えなかったんだな。
「えへへ~、蜂蜜~♪」
「わ、光、蜂蜜かけすぎじゃない?」
「お砂糖欠けるよりいいでしょ~」
「太るぞ?」
蜂蜜のカロリーは牛乳の約6倍なんだとか。
「今は縦に伸びるんだもん~」
いや、だからって……食パンの反対側から滴るほどかけんなよ。第一にもったいない。