276 ほうき片手に中間休み
「しゅ、しゅ、しゅ、修也くんっ!」
「……何だよ?」
「あの、……放課後、体育館裏に来てくれないかな……?」
あのさー。
これってほとんど告ってんのと同じじゃね?
岳だ!
二時間目の後の中間休み、教室のど真ん中で理絵って奴が修也にそんな事言ってんだけど……。
「今日用事あるから」
「そ、そっか!」
あーあーあー。冷たい顔してそんな事言うなよ、ちょっと泣きそうじゃんか。ただでさえ泣き虫なのに、理絵。
なんで知ってるか? 転校してきたときからずっと同じクラスなんだよ。
「容赦ねーな、修也ちゃんよ」
「用事あんのは事実なんだけど」
「へぇ? 何の? 奈那子さんがらみけ?」
「……あ、あぁ」
「当たりかよ!?」
「分かってて言ったんじゃねぇのかよ!?」
オレはエスパーなんか使えねーし。
適当に言っただけなんだけど?
「奈那子さん、今日休みだもんね」
おぉ、翔。
その漢字ドリル、今日提出の宿題じゃなかったっけか? さては忘れてやらされてるな?
「あぁ、風邪流行ってるから……」
「じゃ、修也の用事って、奈那子さんの見舞いか?」
こくり。
何で顔赤らめるかなぁ。
「風邪うつったら嫌だから来るなって言われんじゃねぇの?」
「電話で言われた」
「言われた後かよ!」
んじゃ行くなよ!
「でもやっぱり……うん」
「分かんねーよ」
うんってなんだよ、やっぱりってなんだよ。順不同。
「別に分かんなくていいし」
「んだぁ? その言いよう。やんのかコラ」
「岳、不良みたいだよそれ」『またかー』「仲良きことは美しきかな」
いつもの光景ってか。
……あれ? オレ、別にこんなこと普段言ってねーぞ? 不良みたいなの。
不良って見た事ねーけどさ。
「よし、修也」
「……?」
「武器を取れぃ!」
「ほうきでいいか?」
緊張感ねぇー。ただの小学生の喧嘩じゃねーかよ。
いや、本当にただの小学生の喧嘩なんだけど。
「よし、んじゃ……掃除すっか」
『なんでだよ!?』
たまには皆に『またかー』って言われるようなこと以外の事もやってみようかと思って。
で、手にほうき持ってたから。
「ほい、翔も」
やってから言うのもなんだけど、ほうきって投げて渡しちゃ危ないよな。あ、あっさり受け取りやがった。
「なんでおれも!?」
「高山グループの一員だからな!」
「何のグループそれ!」
「オレのグループ。今作った」
できたてほやほや。買うなら今だよ! どこの店だコレ。
「ほーれほーれ、下になんか落とした奴! 今すぐ拾わねーと捨てられんぞ!」
って言いながら掃いただけで、なんで皆慌ててかがむんだよ。どんだけ落し物あるんだ。
「なぁ、修也ー?」
「何だよ」
「奈那子さんの見舞い、オレも行っていーか?」
「なんでお前まで……」
「奈那子さんも高山グループに入れたからだ!」
「だから何のグループだよそれ!?」
んだから、オレのグループだってば。