269 しつこいほどにトリックオアトリート
「さぁ~、やってきました文化祭!」
『トリーック! オア! トリートォ!』
ハロウィンの方で盛り上がっております。
忍でーす。
文化祭です。ちなみに、二日あるうちの一日目です。
飾り付けOKの三年一組の教室は、朝のSHRがものっ凄いやりにくいです。
だってあっちこっちに黒い布が垂れ下がっててさー、通路程度の隙間しか空いてないしさー。まぁ、いいけど。
「先生、お菓子くれないんですか?」
しーちゃん、誰もが言いたそうにしていた事を見事言ってくれました。
「あの、ここ学校なんだけど……」
「展示物の名前は『オバケ喫茶』だからお菓子があっても問題ないんです」
誰だ、今の屁理屈。
「いや、あのねぇ……」
「くれねぇんだと。フルボッコでいいか?」
いや、あのね、純兄……。
『やっちまえー!』
悪乗りするなよ、クラスの奴等も。
開会式が終わり……ん? 突然飛んだ? 気にしない。
柿の種ならオバケ役にピッタリな腫れあがった顔に……は、なって無いけど、クラス中の罵声を浴びて心がフルボッコになっています。
「ちゃんとやってよ~、二人とも♪」
「ねぇ、桜……空気読んで前から言わなかったんだけどさ……暗い中をオバケの格好してわいわいきゃいきゃいやるのってさ、展示に入るの?」
「詩と同じだよ~、やる人が展示だって言ったら展示なの」
何その一瞬納得してしまいそうでできない理由。
「オバケ屋敷とどう違うんだよ?」
「全然違わないよ~」
あっさり認めやがった、この人。
「うわ、似合いすぎだろおめー等」
うん? あ、村田。
「ドラキュラか? それ」
「うん、一応ねー」
学ランのズボンに、普通のカッターシャツ着て、上からマントを羽織るだけ。純兄も同じ。ちなみにズボンはシジミ……もとい、紫波から借りました。
……紫波、小っちゃい方なのに……結局ぶかぶかなんだけど。
「うん、似合ってるぜ」
「改めて言い直さなくていいんだけど」
ドラキュラの衣装似合うって、褒められてるのかけなされてるのかよく分かんないね。
「……あの、桜さん? さっきからあたしの背後で何してるの?」
「髪くくってるの。純くんもくくってね~。そっちの方がそれっぽいから」
あ、そうですか……。
「うっわー、やっぱお前等兄妹だよな。同じ服来て同じ髪型したらめっちゃ似てるじゃん」
身長を除いて、とか言って笑いやがった。殴っていーい?
なっくんはフランケン役? 肌色Tシャツに傷の落書きしたの来てるけど……
「思った通り全然フランケンシュタインには見えない」
「じゃあこんな風に作るなよ!?」
だってー。
「めんどくさかったんだもん☆」
「だもん☆ とか言うな! ちょっと可愛いじゃんかよ」
そりゃどうも。
「あ、夏」
「あん?」
「小物忘れてんぞ」
小物?
「ネジカチューシャ」
「…………あの、確かに頭にネジが付いてた方がいいとは思うが……何でカチューシャなわけ?」
その方が頭に付けやすいからに決まってんでしょうが。他に付けやすい方法があるなら言ってみなさい。
「瞬間接着剤で直接頭に付けるか?」
あぁ、そっちの方が付けやすい。
「すいませんでしたぁっ!」
なっくん逃げちゃった。
「忍、まだ来ないか?」
しーちゃんは白頭巾のゴーストかぁ。……似合う。めちゃ似合う。作って良かった。
「もう来るよ。ほら、展示見に回っていいですよーの放送今鳴ったし」
後半の担当の人が喜び勇んで出て言ったよ。
なんか『トリック・オア・トリート!』とか叫びながら。何故?
あ、背後で扉が開く音が。
「トリック・オア・トリート!」
『うわっ!?』
いきなり引かれました。ちょっと傷つく。
二年生の女の子三人組だね。えーっと、なんか直前になってやれって言われた台詞台詞……。
「いらっしゃいませ。このオバケ喫茶には、スペースの事考えずに作った馬鹿共曰く、悪戯の部屋とおもてなしの部屋があります」
純兄。敬語になるとトンデモナイ毒舌になるのはなんで?
あ、トリートって、おもてなしって意味なんだって。この間初めて知った。
「悪戯の部屋は、その名の通り、数々の悪戯が待ち構えております」
……あ、純兄の目が『始め言ってやったんだから続き言え』って言ってる。
「えっと、おもてなしの部屋は『おもてなしして!』という視線が鬱陶しいほどにあちこちから飛んできます」
ぶっちゃけ鬱陶しいだけです。とは言わないでおいてあげよう。……あ、鬱陶しいって言っちゃったか。
『どちらがいいですか?』
ごにょごにょと相談し始める少女たち……おいおい、トリートは鬱陶しいって言ったのに。
「トリックがいいです!」
まぁ普通そうだろうね。
「右のカーテンをくぐって、そのまま進んでください」
『はーい』
今更ながら思うだけど。この役要るのかな?
あ、悲鳴が聞こえてきた。悪戯って何やってるんだろう。うーん、あたしも行きたい。
「ねぇ純兄」
「いらっしゃいませ、悪戯とおもてなし、どちらがいいですか?」
うあ、二組目からいきなり略し始めたよこの人。
「おもてなし!」
え、そっち選ぶ? 男子二人組。
普通悪戯かおもてなしかって言われたら悪戯選びたくならない?
『きゃぁあああああっ!?』
ほんとに何やってるんだろう、悪戯の部屋。
あぁ、また来た。
「トリック・オア・トリート! どっちがいーですか?」
『トリック!』
即答したよ、この一年二人組。
「Hello!」
あれ? 外国人さん? あ、そうか。保護者なら入れるのか……って、誰の保護者だこの人。めっちゃ気になる。
「トリック・オア・トリート!」
とりあえず他の人と同じ事は言っておこう。これ、英語だし!
「Happy Halloween!」
…………。
「純兄、お菓子貰えた」
本物のチョコレート。一人二粒ずつ。用意良いなぁ、この人。
「ありがたく貰っとけ。Thank you」
あぁ、お礼は言わないといけないよね!
「サンキュー!」
「You're welcome」
どういたしまして、だったよね。
「Which do you like better,trick or treat?」
……純兄、なんか普通にやってるし……。絶対、柿の種よりも発音きれいだよ。
「Well……trick!」
「I see that.This way, please」
……あたしの知識では分かりません。
多分、こちらへどうぞとか言ってるんじゃない?
「高山兄妹ー、次入れるよー」
「あ、はいはい」
……あれ? 見覚えのある人たちが。五人組。
「来たよ! しののん!」
「田中、この人たち飛ばしてよいいよ」
クラスメイト、今回の案内係。田中の説明、コレくらいでいいよね?
「しののん先輩! いきなり追い出されるのは納得いきません!」
「……差別」
日ごろの行いが悪いからだよ、オカルトオタク共。
「もー、んっとね、悪戯の部屋とおもてなしの部屋があります。どっちに行きたいですか?」
「適当っすねー」
日ごろの行いが……以下略。
「で、どっち?」
「そりゃーもちろん……」
『トリック!』「トリート!」
はいはい、分かりました。
「じゃあ部長はこっち、ほかの方はこっちの奥へどうぞ!」
「何でみんなそっち選ぶの!?」
オカルト部の部長って事になってるのに、おもてなしの部屋を選んだアンタに、あたしたちが『何で』だよ。
はい、さっさと行ってらっしゃい!
「あ、純兄お帰り」
「ん」
どこまで行ってきたんだろう。
「悪戯の部屋って、どんなんだった?」
「ん……ジャックランタンが足元に並んでて、色んなオバケが襲い掛かってきてたな」
もう完全にオバケ屋敷じゃんか。ハロウィンバージョンの。
「スライム投げつけたり、足元に紐貼ってあったり……」
「ちょっとやりすぎじゃない!?」
「受付で念の為に雨合羽欲しい人には渡してるってさ」
……やるからにはとことんやりたいからって事かな?
「腹巻巻いたゾンビの衣装、あっただろ?」
「あぁ、あれね」
あたしがわざっわざ編んだ腹巻。何でゾンビが腹巻してるんだ。
「あの外国人さんのツボにはまったらしいぞ」
「どういう風に!?」
「腹巻が気に入ったらしい」
……そりゃどうも?
「英語で色々話しかけられて困ってたのをほっぽって来たんだけどどうなったかな」
鬼かアンタ。