265 お父さんと虹色のクスリ
「ねぇ斬くん。そのおかしな色の物体が何かおにーさん知りたいなー……」
「……ほんと?」
「やっぱ嘘です知りたくないよ」
「じゃあ、聞かないの」
「はい……」
うわぁ、四歳にたしなめられる二十一歳の図? 我ながら情けない……。
リオンです。純からはリオって呼ばれてます。
部隊長、妙羅さんは昼寝中……あれ、もう夕方なんだけど。忍と純は現実世界で学校。エイラさんは恐らく天ちゃんに振り回されているのでしょう。
「りおにぃ」
あぁ、手元の虹色の固体が無ければ凄くいい笑顔なのに。
「実験体、よろしく」
「丁重にお断り申上げさせていただきます。はい」
剣くんが悲惨な事になってる所は何回も見たからね……。いま思えばよく生きてるなぁ、あの子も。
「えー」
「えーじゃないの。大体何のクスリなの?」
「美少年になるクスリ」
「今さらっとすごい事言わなかった!?」
どんなクスリだよ。あ、虹色のクスリか。
「欲しい?」
そりゃまぁ、欲しいっちゃ欲しいけど……。でもねぇ。
飲んだ瞬間、逆のことが起こる可能性だってあるわけだし。むしる、そっちの方が確立高そう。
「いらないよ」
「チッ」
チッ!? いま舌打ちしなかった!?
「こら、舌打ちなんかしないの」
「チッ、チッ、チッ」
鳥でも呼んでるの?
「誰か、飲ませてくる」
「待ちなさい」
他人に迷惑掛けないの。
……あれ、今誰かがノックする音が聞こえた。
「はい?」
「良恩です」
あぁ、ライオン、もとい良恩先輩。
「開いてますよーってこら、斬くん!」
ゴム鉄砲スタンバイしない!
パチンッ
あーあー、跳ね返って自分の手に当たっちゃった。
「……これ、あまり痛くない」
所詮ゴムだからね。
「生きてたか、リオン」
「生きてないですよ、死神だから」
「分かった。体壊さなかったか」
「今のところは」
多分、これからも大丈夫……か、な?
「で、どうしました?」
「いや……こいつ等の事で」
凶悪トリオね……。良恩先輩の教え子だったっけ、曲がりなりにも。
曲がりまくりにも。
「皆無事か?」
「楽が出来るって一部喜んでます」
トリオに関わってない人たちが。全く、この子達の恐ろしさを分かっていない!
「…………そ、か」
良恩先輩、足凍ってる。凍ってるといえば……。
「斬くん! 部屋の中で氷使っちゃだめでしょ!」
「え」
「えじゃないの! ちょっとそこに座りなさい」
てとてとと走ってきて、指された場所にちょこんと座る。
うーん、和む。
じゃ、なくて! 今日こそはちゃんと叱っとかないと。
子育ての本に書いてあったし。間違った事は間違っているとちゃんと言いなさいって。
「あれ、良恩先輩、どうしました?」
「……お父さんか、お前は」
半笑いの視線を向けないでください。
全く、純といい良恩先輩といい、他の人たちといい……なんで俺の事お母さんだの、お父さんだの言うかなぁ?
「こんばんは、良恩先輩」
あ、純来た。
「おぅ、純か。久し振りだな」
「昨日会ったと思うんですけど。ボケました? 年ですか?」
いつもの事ながらキッツいな。
「……純、ちょっとそこに座れ」
「はい」
素直に座る純。
「……えっと」
どうしようか困る良恩先輩。考えてなかったんだ。
こっち見られても困りますよー。
「りおにぃ。いつまで座ってたらいい?」
「あ、ごめん。斬くんのこと忘れてた」
「ひでぇって、こういうとき使う?」
うん、そうだけど、何処でそんな言葉覚えたの。
……あれ?
「純、今、何か弾かなかった?」
「ぐぅっ」
「良恩先輩!?」
…………あの、まさか。
「さっきの、クスリ?」
「解毒剤あるって言うからには大丈夫だろ」
「お前も結構緩いよね!」
制服きっちり着てる割には……純、今のはけなしたんだからね?
「ふぅっ」
「あ、良恩先輩、大丈夫、です」
か……?
顔が別人に!?
「なんか、フェ〇ゼンを思い出すな」
誰!?
「成功」
いや確かに美少年……ってか、美男子になってるけど……。
現実世界の、昔の、少女漫画みたいな……。二次元な顔が目の前にあるんだけど。
「怖いわ!」
「流石に同感」
「じゃあ、豚になるクスリどう?」
じゃあの意味がわかんないよ!