264 食欲の秋
「うまー」
「忍、顔とろけてるぞ」
「いーの。柿美味しいから」
とろけてるのは柿の方だし。
忍でーす。
学校から帰ってから、じゅっくじゅくの熟柿食べてます。熟しすぎてどろどろになったアレ。甘いよねー。
種周りのちゅるちゅるしたとこが一番好き。
「あ~っ! お姉ちゃんズルい~!」
「ズルくないもーん。こーゆーのは早い者勝ちだもんね」
「そんなルール無いもん~」
あるもん。あたしの中では。
「ちょっとちょうだい~」
「ほい」
……あれ、なんかすごい勢いで柿が減っていく。
「こら、全部食べようとすな!」
「えへへ~」
「光、口周りに柿の汁付いてんぞ」
ほんとだ。どんだけ急いで食べたの。
「分かってるよ~。洗って来るね~」
ほーい。
「あれ、純兄何食べてんの?」
「みかん」
みかんかー。
「酸っぱくない?」
あたしが食べるとき、たいていみかん酸っぱいんだけど。
「かなり甘い」
いいなー。
「一個ちょうだい」
「カゴん中から取れよ」
いや、それじゃなくて……。
「んと、薄皮に包まれてる一個ね」
「一房、だろ?」
あ、そんな数え方なんだ。
「じゃ、一房ちょうだい」
「ん」
……ちょっと酸っぱい。
「純兄の嘘吐き」
「熟柿食ってたからじゃねぇのか」
あ。
しまった……。
「お兄ちゃん~、私にもちょうだい~」
洗面所からお帰り、光。
「ん」
「ただいまーっ!」
あ、岳帰って来た。
「お帰り~!」
「お帰り。どこ行ってたの?」
「修也ん家」
あぁ。あの子か。
「あれ、姉ちゃん、熟柿食ってんの?」
「うん、食べる?」
「あ~ん~」
光はさっき食べたでしょ。
口開けてスタンバイしない。鳥のヒナかアンタは。
「オレはいらね」
「こんなにおいしいのに」
特に種周りのちゅるちゅる。あ、なんか昔の人の名前みたい。
「やっぱ柿は硬いのだろ! じゅくじゅくとか、甘すぎるじゃん?」
「いや、確かにそっちも美味しいけどさー。柿はじゅくじゅくの方が旨いよ。ね、光」
「どっちも美味しいよ~」
両方かい!
「歯ごたえある方がいいって! なぁ、兄ちゃん」
「俺はじゅくじょくと硬いのの間がベストだと思う」
純兄はどっちでも無かった!
「あ、そういえば裏山の柿、どうだろ」
「姉ちゃん。急に話変えんなよ」
だって気になったから。
裏山に、そこそこ大きな柿の木あるんだよね。渋柿だけど。
干柿にしたら美味しいから……種めっちゃでかいけど。そのせいで実はあんまり無いけど、生った年は取ってきて干してるんだよ。
今年、確か生ってたはず。
「あー、なんか、裏山の柿の事考えてたら、急に干柿食べたくなってきた」
「あ、オレもオレも」
「私も~」
干柿は皆好きなんだよね。
「早くオレンジ色にならないかな~」
「あ、まだ緑色なの?」
「先っぽの方はオレンジなんだけどね~」
うー、そっか。
「気長に待とっか」
『駄目!』
うぉ。なんで急に怒鳴るのさ。
「気長に待ってたら~」
「他の動物に採られるだろっ!」
そ、そっか。
「だから今から採りに行こ~」
それは早すぎる。