261 勉強してる人を邪魔するには
「……お姉ちゃんが壊れちゃったよ~、お兄ちゃん~」
「曲がりなりにも受験生じゃん? 今まで勉強して無かった方がおかしんだよ。……多分」
「受験ってそんなに大変なの~」
「ちゃんと習った事覚えていれば、まずⅠ類には受かる」
……って聞いた。教師から。
「じゃあお姉ちゃんは~?」
「社会はほとんど覚えてない。理科も一年の方はちょっとあやふや……とか言ってたな」
純だ。
忍が昨日から一日の殆どを勉強して過ごしてるもんだから、光が騒ぎ出した。
……別に、壊れちゃいないんだけどな。ちゃんと無駄に寝てるし。食ってるし。
「何で今更勉強し始めたんだろ~」
今更とか言うな。まだ間に合う時期なんだから……どっかの塾の宣伝広告曰く。それは即紙飛行機になったけど。
「白銀に本気で行きたくなったんだと」
「なんで~?」
「俺が知ってると思うか?」
「思う~。だって純お兄ちゃんだもん~」
光の中で俺は何者になってんだ。
「知らねぇよ」
「岳お兄ちゃんは~?」
「知らねーよ」
突然勉強しだしたんだから……なんか不気味だな。人の事言えねぇけど。
「気になんなら聞いてみりゃいいじゃねぇか」
「怖くて聞けな~い~。純お兄ちゃんみたいに~……」
俺みたいに、何だよ。
「話しかけちゃいけない気がする~」
「俺がいつ『話しかけちゃいけないような気がする』状態になった」
「いつも~」
今話しかけてんじゃねぇか。
「パズルしてる時の兄ちゃんだよな!」
「そうそう~!」
盛り上がるな。確かにその時話しかけられたくねぇけど……。
「で、姉ちゃんどうしよ」
「お姉ちゃんだから~、飽きたらやめるよ~」
だろうな。……止めちゃ駄目だろ、勉強。
……あれ? お袋が冷蔵庫から、丸い入れ物取り出してる……。
「レアチーズケーキ作ったけど食べる~?」
『もちろん!』
あ、二階で物音が。
なんかすごい勢いで階段下りてくる足音が。
「レアチーズケーキあんの!?」
忍の奴、飽きる前に勉強止めやがった。
「作ったの~」
「おー、おかーさんの手作り」
……なんでもう忍と光の手にフォークが握られてんだ?
「早く食おーぜ!」
「岳、ナイフを振り回すな」
「あい」
分かればよし。
「ね~、お姉ちゃん~」
「んー?」
「何してたの~?」
「べんきょー」
「なんでー?」
「あたしが勉強しちゃいけないの!?」
だれもそうは言ってねぇし。
「だって急に始めるからびっくりしちゃたんだもん~」
「酷いなー。あたしだってやるよ、勉強くらい」
めんどくさがってやってなかったくせに。
「……白銀行きたいし」
へぇ。
「なんて~?」「姉ちゃん、今なんつった?」
「スルーよろしくー。いただきます」
いただきます。
「召し上がれ~」
「ね~、お姉ちゃんなんて言ったの~?」
「なーなー、聞こえなかったって。もっかい! ワンモアチャンス!」
何か違うぞ、岳。
「ごちそさま」
『食うの早っ!?』
いつの間に……。
「あ、忍」
「んー? 何、純兄」
「暗記モノは寝る直前にやった方がいいぞ」
「あーい。分かった」
……昼寝するつもりじゃねぇよな?