259 わが布団にお化けがやってきた
「ね~んね~ん~、ころ~り~よ~、おこ~ろ~り~よ~」
「……あの」
「なぁに?」
わぁ、なんて素敵な笑顔だろー、ってそうじゃなくて!
「なんで会ったことも無い人に子守唄歌われてんだあたしは!」
忍です!
寝ようとして布団に潜ったら……黄色い着物着た美人さんが壁通り抜けて入ってきて、子守唄歌いだしました。
ご丁寧にとーん、とーん、って叩いてくれたりもして。
……壁通り抜けてって事は人間じゃないよなぁ。
「さぁさ、もう遅いのだから寝ないとダメよ」
「……眠気ならアンタが入ってきた瞬間吹っ飛んだけど」
「あらあら、私はお菊よ」
お菊姉さん? お菊姉さん、ねぇ……。
「お菊さんか!」
「そうだって言ったじゃない」
あぁ、ごめん。
「あの、お皿数えてるお菊さん?」
「……いっつも一枚足りないの。十枚一組のお皿なのに、九枚しかないの……」
おぉう、リアルで見ると怖いわ、これ。
「さ、忍ちゃん。早くおねんねしなさい」
「いやあの、子供じゃないんだから……」
「中学生はりっぱな子供です」
そうかなぁ? ファミレスとかでお子様ランチ出してもらえないよ? 電車とかは大人料金よ?
……あれ、ちょっと待てよ?
「なんであたしの名前知ってんの?」
「純から聞いたの」
「納得」
そういえば知り合いって前言ってたね。
「お菊さんって、お化けだよね?」
「えぇ」
「お化けって、普段何してるの?」
「好きな事してるわよ」
好きな事かー。好きな事……。
「例えば?」
「私は、お皿を数えてるわ」
「……なんで?」
「だって、怪談ではそうなってるでしょう?」
言っちゃっていいのか、お化けのほうがあわせてるって。
「他には?」
「機織、お料理、お裁縫……お手伝いに行く事もあるわね」
そっか、怪談のお菊さんは奉公に出てたんだっけ。
「じゃあそれが仕事かー」
「仕事? ううん、好きな事をしてるだけ」
……ふーん。お給料無しって事かな?
「お化けってさ、着替えたり物食べたりするの?」
「そりゃするわよ。湯浴みだってするもの」
湯浴み? あ、お風呂入る事か。
「へー、お化けって、ヒューどろどろどろのイメージしかなかったや」
「ヒューどろどろどろ?」
突っ込まないで。
「ねぇ、足の無いお化けっているの? あの、先っぽがシュッて細くなってて、白い奴」
「居るよ」
おぉ、本とに居るんだ。
「あれってどうやって移動してるの?」
「さぁ……重心を傾けてるとかかな?」
重力無視して浮いてんのに、重心とか関係あるの?
「あっ」
え? 何?
「何か思い出したの?」
「忍ちゃん、もう寝る時間よ」
そこに戻るか!?
「ね~んね~ん~、ころ~り~よ~、おこ~ろ~り~よ~」
いや、歌わなくていいから……。