256 お菊さんとパイだよ、四人組
「ただいまー!」
『お邪魔しまーす』
お邪魔されますっとな。
岳だぜーっ!
学校帰り、直接オレん家に来た、不良な奴等は……ま、いつものメンバーで、修也、翔、奈那子さんだ。
「お帰り~」「……お帰り、なさい」「お帰りーっ!」
……甘い臭いがする。ちょっと焦げたような香ばしい臭いもする。
「何か、作ってんのか?」
『ぴーんぽーん』
よっしゃ逃げよ。
「あ、お邪魔してます、岳くん」
「……どちらさん?」
「お菊と申します。どうぞよろしく」
黄色い着物の美人さん。なんか古そうだけど。
「オリジナル料理を作るコツを教えて、との事で……私がやっていいものか分からないけど……」
「お願いしますお菊さん! これ以上不味いの食べたくねーし、本気でたのんます!」
「は、はい」
肩つかんで揺すったら、頭がくがくしながらうなずいてくれた。マジで頼むぞ、お菊さん!
……あれ、どっかで聞いた名前だなー。
「んじゃま、オレん部屋行くか」
「ごめん、岳。勝手に行こうとしてた」
翔、親しき仲にも礼儀ありっつー諺知ってっか?
「修也と奈那子さんは既に部屋の中に」
……ま、慣れてるもんな。そこそこ来るっちゃ来るし。
「さーって、今日は何するかな」
「百マス計算? それともパズルのほう?」
「いや、それは今やるのがねーんだ。昨日、見つけた時に印刷しときゃよかった」
すぅっげぇめんどくさそうな百マス計算。姉ちゃんなら、絶対やる前にさじ、ってかペン、放り投げちまうようなの。
「さーって、何すっかなーっと。……何しとんお前等」
何でオレの部屋で修也と奈々子さんが重なりあって倒れとるん?
「岳……お、ま、え、なぁっ! 何でこんなに紙散らばってんだよ!」
「滑っちゃうじゃんかぁっ!」
何だ、コケたのか。
「あー、この紙はだなぁ、あれだ。ファイルが落っこって、中に入ってたのが散らばっただけだ」
『はさんどけよ!』
穴開けるのがめんどくさくて。
あい、とっとと集めて机にポイ。よし。
「何しよっか。あ、エク飴食う?」
この変な味にハマった。
『ちょうだい』「結構です」
んだよ、奈那子さんの奴。怖かったんじゃねーのかよー。ま、あげるけど。
翔はトラウマか。
あ、今修也が何か言おうとして諦めた。気になるじゃん、言えよ。
「岳くん、忍さんは?」
「まだガッコ。もーすぐ文化祭なんだってよ」
オバケ喫茶という名のただの展示物やるとか言ってたなー。オレも行きたい。何で平日にあんだよっ!
『…………』
沈黙。何しよう。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん達~!」
「生麦生米生卵ーっ!」
「……食べてっ!」
おぉう、何かバタバタ聞こえるなーっと思ったら。
お、うまそーなパンプキンパイ。…………いや、騙されるなオレ。綺麗な花には棘があるもんだぞ? 流石にこのパイに棘が入ってるこたねーだろーが、不味くなるようなモノの一つや二つや九つは入っててもおかしくねーよ。
「どうしよう、すっごく美味しくできちゃった!」
「びっくりだよ~」
「お菊姉さま、感謝感激雨霰……ってくらい」
……何か、いまいち信用できねーのは今まで散々酷いもん食わされたからだろーなー。
「岳くん、本当においしいのよ。食べてみて?」
何か、みーちゃんがお菊姉さまとか呼んでたのがちょっとわかった気がする。
「こっちは修也くん達のね~。はい~」
「はいっ! 奈那子ちゃん!」
「どうぞ……翔さん」
えぇい、ここは一か八かっ! あむっ。
「うめぇじゃん」
「ホント! どうやって作ったの?」
……身構えて損した。
「どうやって作ったんだっけ~」
「忘れたっ!」
「同じく……」
何で!?
「オリジナルなの、いちいちメモなんてしてなかったから」
「お菊さん、アンタ心読めんのか、読心術使えんのか」
「だって全部顔に出てるじゃない」
マジで!?
あぁそこで頷くなお菊さん!
「純より分かりやすいわ」
「そりゃそーだろーよ!」
兄ちゃんのポーカーフェイス舐めんなよ!? そりゃ多少表情は変わるけども!
「忍ちゃんよりずっと分かりやすいわ」
「それもそーだろーよ!」
姉ちゃんなんか何考えてるか表情見ても分かんねーもんな! ころころ変わる癖に!
こないだ、真剣な表情してるなーと思ってみてたら、独り言が『テーブル、彫刻刀で掘ったらどんな感触するんだろう』だぜ!? おかしいよな!?
ってか、掘るなよ!?
「おっと」
「翔、皿落とすなよ」
「大丈夫、かろうじて落とすのは阻止したよ」
……お菊さんが。
「お皿は割ったら二度と戻らないのよ!」
ボンドでくっつけりゃもどりそうだけどな。