255 どー思って
「し、忍っ」
「あーい?」
眠いー。眠いー。誰か眠気をもっとちょうだい、寝るから。
忍でーす。
放課後、いつもなら帰るか校舎内うろついてるかしている時間ですが、今はそういう訳にはいかないのです。
もうすぐ文化祭だから。……もうすぐって感じはあんまりしないんだけどさ。
衣装係なので、チクチク縫い縫いやってます。今作ってるのは足無いオバケの白頭巾。
手のところがだら~っとなるように袖も付けたよ。頭巾じゃなくなった。……足まですっぽり覆える時点で頭巾じゃないか。
「忍! 聞いてるの? あ、ちょっと、袖付けるところ間違ってるわよ!」
「あい? あ……しまった」
背中部分に縫い付けちゃった。これじゃ天使の羽だ。
「よかった、気付くの早くて。ありがとー、玲奈」
「どういたしましてっ! 話聞いてくれる?」
「あいあい、何の話でござんしょう」
「誰よ」
さぁ?
「あ、そうじゃなくて! 聞くわよ?」
はいどうぞ。
「し、忍って……好きな人、居る?」
「そりゃ居るよ」
「嘘っ!?」
嘘って何さ。あたしそんなに嘘吐きじゃないよ。
「誰!?」
えーっとねー。
「純兄でしょー、岳でしょー、光でしょー、玲奈でしょ、桜にしーちゃん、なっくんとー」
「ちょ、ちょっと待って! ストップストップ! え、そういう意味の好き!?」
「え、違うの?」
あっ、針落とした。危ない。
「……そっちの意味だとしても言えるのは凄いけど……恋愛的な意味でよ!」
「おぉ、大胆にも純兄に直接聞いてた方の意味か」
「傷に塩を塗らないでよっ!」
いや、なんとなく。
昨日、直接玲奈が純兄に『好きな子、居るっ?』って聞いてたのがあまりにも印象的で。赤ペンキ顔に塗ったのかと思うほど赤かったけど。
「で、居るっ?」
純兄に岳は論外でしょ。知り合いの男の子と言えばー……
なっくん、清、村田、水谷、シジミもとい紫波、クラスの野郎共、山口の人達に……最近見ないサンゴの兄ちゃん。
「居ないな、うん。玲奈は?」
「えぇっ!? え、えっと、あの、い、居ないわよっ!」
「……それ、信じろと?」
「そうよっ!」
いやいや無理だろ。
「にしても、純兄どこ行ったのかなー。衣装の小物ほったらかして」
「そ、そうねっ!」
おぉ、急に玲奈の手が速く動き出した。縫い目ガッタガタなんだけど。
「玲奈、隠さなくてもいーじゃん、水臭いなー」
水臭いって言葉初めて使った! ……気がする。
水臭いっていえば、死神の事ずーっと隠してた純兄の方が水臭いよね。
「うぅーっ、し、忍っ。あたし、忍のお姉ちゃんになれるかしらっ?」
「色々と話が跳びまくったような気がするのはあたしだけか!?」
「きゃぁああああっ! い、言わないでよねっ!」
だってぇ。
「忍っ、純、あたしの事、どう思ってるかしら……べ、別に気になってるわけじゃないわよっ!」
「はいはい、分かった分かった」
多分ねー。純兄はー……
「分かりやすい奴だと思ってると思うよ」
「そう言うのじゃなくてっ!」
えぇ? うーん……。
「可愛いとか」
「ぼんっしゅ」
ぼんっしゅって何? それは玲奈の頭がオーバーヒートした音です。口で言うか?
「……おい忍。玲奈、どうした?」
「あ、お帰り純兄。どこ行ってたの?」
「ちょっと口裂け女のとこに」
何しに!?
「べっこう飴貰ったぞ」
「おー! くれるの!?」
「ん」
ありがとー。帰ったら食べよ。
「あ、あのさ、純兄。玲奈、どう思ってる?」
カチコチだから、今は聞こえてないでしょ。
「ん? 玲奈?」
カチコチなのに手はロボットみたいに動いて縫物を続ける玲奈を見て……一言。
「変人」
あの、玲奈の目に涙がぁっ!
「折角美人なのにな」
玲奈がどんな反応をすればいいのか混乱しております、って聞こえてるじゃん!
「キュウ」
あ、玲奈がもぬけの殻に。でもまだ縫い続ける。怖いよそれ!
あ、純兄に敵意の目が。主にモテない男子から……これじゃ全員だから、恋愛ごとに興味あるのに彼女が居ない男子から。
「……やっぱり難しいな。妙羅が何か読んでるから借りてみたら……」
そう言いながら取り出した本は!
『クラスの女子の取り扱い説明書』
おいこら。