252 理科の先生を怒らせるべからず Ⅱ
「細胞分裂は前の時間にやりましたね。じゃあ今回はこれです」
「細胞破壊!」
何その恐ろしそうな言葉。
「高崎君、黙りなさい」
「すいませんでした……」
理科の先生相手だと弱いなー。
忍でーす。
理科の時間、細胞分裂は昨日やったので、今日は染色体だそうです。
……遅くない? 何か、ほかの学校に比べて、遅くない!?
「はい、これで一本の染色体です」
H型、かと思ったらこれでXの形なんだねー。
「これの中に、親の情報が詰まっていて、子どもに伝えられます」
「たとえば~?」
「眼の色とか、髪の色とかね」
耳たぶがくっついてるか離れてるかーとかもでしょ。
「生物の形を作るための設計図とも言えますね。
あ、そうそう。兄弟、姉妹は、情報の50%位が一致しているらしいけど……」
……あの。
何で皆こっち見るの?
「あら、ちょうどいい所に兄妹が。観察してみましょうか」
『観察言うな』
あたし等は植物か。はたまた金魚か、メダカか、カエルか。
「似てるんだけどな……何っか違うんだよなぁ」
本気で観察するな、清。
「髪の色じゃない?」
『あぁ!』
あぁ! じゃないよ。
「それだ! 二人とも基本は黒なんだけど、忍は茶色っぽくて、純はそうじゃなくてー……うーん、とにかく真っ黒いんだ。あ。烏の羽に似てるな! むしろまんま! 烏羽色か!」
しーちゃん、何興奮してるの。いくら理科好きだからって……。
「篠、普通それって女の人の髪に使う言葉だよ~?」
「似てるんだから仕方がない」
……はっきり言うなー。
「目の色も違うよな。髪と同じ色だし」
「弟妹居るんだったよな、そいつ等は何色?」
岳と光?
そんなに注意深く見ないからなー。
「忍と同じだ」
「純だけ違うのか。誰譲り?」
「爺さん」
へー。それは初耳。
……いや、多分聞いてたとしても忘れてるな。
「他は別に違うとこねーよなー」
「そうだよね~、顔立ちも似てるし~」
そーかな?
「でも表情がなー。純は殆ど無表情のなのに、忍ころころ変わりすぎるんだよ」
何か悪いか。やろうと思えばできるよ? 無表情。
「ちょっと二人、立ってみて」
『ヤだ』
「おぉ! 今の表情そっくりだったぞ!」
何で興奮するの。クラスメートA
「なぁ! 似てたよな!」
「似てた似てた!」
盛り上がるな!
「でも、身長も違うよなー。立ってみろってば」
「ヤだ」「何で?」
おい、何で『あっちゃぁ~』とか言って額押さえるの。
「そこはハモれよ-!」
「知るか」「えー」
「ハモれってば!」
無茶言うな。
いや、何かよくハモることはあるけどさ。
「なんかなー。純は高いのに、忍小っちぇよな」
「悪かったね!」
まだ成長期なんだもん、これから伸びるんだもん! ……多分。
「小学ん時は俺の方が小さかったんだけどな」
『嘘ぉ!?』
あ、あたしまで一緒に叫んじゃった。
「そーだったっけ?」
「記憶力悪いな、おい」
「悪かったね」
悪いとは微塵も思ってないけど。
「あ! 二人の似てるところ思い出したよ~」
桜、もうこれ以上この話題広げないで欲しいんだけど。
『何!?』
「喧嘩強い」
「あたしは喧嘩した事無いんだけど」
適当な事を言わんで下さい。
「じゃあやってみて~、今」
「今!?」
「相手どうしようかな~」
どうしようかな~じゃなくて! 曲がりなりにも今は授業中!
「純くんでいいよね」
「よくない!」『おっけー!』『い、いいの?』
誰も止めはしないのか!
「レディー、ファイっ」
「ファイじゃなぁあああい! ちょ、先生! この人等止めて!」
もう絶対遺伝も何も関係なくなってるよ!?
「はい、染色体は並んで、分かれて、増えるんですよー」
一人授業してる!?
黒板には細胞やら染色体やらの図と共に『お前等受験生だろ♪』の文字が!?
「わぁっ! 先生すみません!」
「調子乗りましたぁっ!」
「お前等、受験生だろ♪」
何か、先生が、ドスのきいた低い声で言った。