246 仲良し八人部屋
「修学旅行だ! 枕だ! 枕投げだ!」
『語呂悪っ!』
とっさに言ったんだもんよ、そんなもん気にしてるわけねーじゃん。
岳だぁっ!
修学旅行といやー、やっぱコレやんなきゃダメだよな、枕投げ!
三つに分かれてるうちの、一番でけー部屋だから八人居るし! これはやれってことだよな!?
意味わからん? オレ様勝手論理何だから分かんなくていんだよ。
「行くぞおらぁああああっ!」
「わぁーっ!」
「そーそー負けるかぁああああっ!」
うん、枕投げじゃなくて枕合戦だな、こりゃ。
「おらぁっ!」
ぅおっとぉ、枕飛んできた。
これ位余裕で避けれるけどな。あ、やっぱ取ろ。武器増えるし。
あい、一個げっとぉ。……あれ?
「痛っ」
何で四方八方から……いや、オレ除けば七人しか居ねーから八方はぜってーねーけどさ。とにかく、何であっちこっちから枕飛んでくるんだよ!?
「岳対他の奴か。面白ぇじゃん」
「修也ぁ! どっこも面白くねぇよ!? はっきり言っていじめだかんなコレ!」
「弱い者いじめじゃねぇからいいんだよ」
「何その屁理屈!」
せーんせー! ここにいじめられてる子が居まーす。先生なら助けろぉっ!
……せんせが居ねーけど。
「仲良きことは美しきかな」
『居たぁっ!?』
何部屋の隅でお茶啜ってくつろいでんだよ!? せんせって確か二十代だったはずだけど!? その年にして爺か!?
「と、とにかくだ、先生公認だから、やっちまえー!」
『翔……やっちまえ?』
「う、あの、その。えーと、そりゃっ!」
枕ありがとう。
「お前等ー、一般の方も居るんだから五月蠅く暴れるなよ」
『先生はどっちなんだよ!?』
「静かに暴れろ」
んな無茶な。
「しつれーしまーっす」
『失礼されまーす』
「えぇ!?」
ごめん、写真屋のおっちゃん。ついいつものノリで。
「写真撮るよ、並んでー」
『はーい』
適当にごさっと集まって……何でオレを踏み潰そうとするんだテメー等。
「前に四人、座って。で、後ろで四人立ってー」
あ、先生居ないことになってる。
……違った、ホントにいつの間にか居なくなってたんだ。
「はい、1+1は~?」
『田んぼの田!』
パシャ
「ええええええ!? 何で君等そういう事言うの!?」
Aはこう語る。
「ちょっとやって見たくて」
Bはこう語る
「おじさん困らせたくて」
Cはこう語る……最低だなB!?
「どんな反応するか見たくて」
Dはこう語る
「これが答えだと思ってた」
マジで!? Eはこう語る。
「皆こういうと思ったから」
すげーなE。翔はこう語る。
「やっぱこう言う事はふざけないと」
修也はこう語る。かぶせてオレも語る。
『ノリで!』
『だよなー』
仲いいよな、オレ等。
「……もう寝る時間だからね、ちゃんとね、寝るんだよ?」
『えー』
「仲いいな君等!」
いや……だって、な? せっかくの修学旅行だしー。仲良きことは美しきかなだしー。
「カメラのおっちゃんが何か怖ぇ話してくれたら寝る」
「あ、それいいなー。おっちゃん、何か話して」
「ホントに寝るんだね?」
あ、疑ってる。そら疑うか。
『多分! きっと! おそらく!』
「話してあげるから寝なさい!」
秋ちゃんみてーだな。ほら、なっくんはーちゃん母の。おっさん声だけど。
「じゃあ話すよ? 布団に入って」
『アイアイサー!』
どこの軍だよここは。あ、『ぐん』は『ぐん』でもこっちの群か。
あい、布団に入って電気消して、ぶっちゃけ言っちまうと季節外れの怪談の始まり始まりー。
「十年くらい前の話な。ある真っ暗な山道の中、右手側には切り立った崖がある所を、男乗っけたバイクが走ってたんだ。男には彼女が居て「そいつぶっ飛ばぁす」いやあの」
「翔、余計な口出しすんなよ」
「ごめん。つい」
つい!?
「えぇと、で、その彼女を送った帰りに、その山道を走ってた。しばらく行くと、何やら道路に細長い、横たわった影が見える。バイクを止めてそれに近づいてみると……」
みると?
「何と、その彼女さんが血まみれになって倒れていたんだ!」
「何だよ、普通の怪談か」
何を期待してたんだ、今喋った奴。
「バイクの男は、がくがく震えてその彼女さんの体を抱き上げた」
勇気あるな。
「するとその、これ以上死ねないような死にっぷりの彼女さんがニコッと笑って、それで男はそのまま怖いのと悲しいのとで走り出して、崖から落ちてしまった。その崖は今、この下になってるんだけど……どうも、出るらしいよ」
そりゃ、その話が本当なら出るんだろうな。成仏してなければの話だけど。
「なぁ」
「どうした? 早く寝なさい」
お父さんか、おっちゃんは。確かにどうした? だけど、修也。
「それ……誰が見てたんだ?」
「えっ!?」
そういやそうだな……ニコッと笑っただの影が見えただの。
『絶対嘘だぁーっ!』
「ええええええ!? ってか、ほんっと仲いいな君等!」
『俺等の団結力を舐めるな!』
「はい」
『よし』
何か話変わってね?
オマケ
次の日。
「……修也」
「あん?」
「マジで出やがった。昨日の話の奴」
「はぁっ!?」
『あの話、ほとんど嘘だったわよねぇ。ね、ダ~リン』
『そうだねぇ、僕らは一緒にバイクで落っこちたんだもんねぇ、ハニー』
怖ぇよ。幽霊とかとは別の意味で怖ぇよ。さぶい
「テメェ等成仏しろ! マジで! 一足先に冬が来てんぞ! おもにオレに!」
『あぁ、あぁ、何か昨日の死神君にそぉっくり、ね、ダ~リン』
『また襲ってきても、僕が守るよハニー』
んだからさぶいって。
「岳、協力感謝。成仏しやがれ、見てる方が寒ぃんだよ」
あ、兄ちゃん。
『きゃぁあああ! 昨日の死神君!?』
『も、もう一人いる筈……ぎゃぁああああ!』
「よし」
おー、幽霊消えた。何をどうしたのかよく分からんまま消えた。何か寒さはしっかり置いていきやがった。秋だから寒いだけか?
「よしじゃないよ、純ってば。勝手に一人で行かないの」
誰だコイツ。金髪青目? 外国人か?
「リオが遅ぇんだよ」
「人のせいにしないの」
「事実だからしゃぁねぇだろ?」
あ、何か説明も無しにどっか行きやがった!
「おーい」
「岳ー」
『頭大丈夫か?』
……これ言う仲良さはいらねぇっ!