243 黒いX
「……十円の飴と二十円の飴、どう違うんだよ」
なぁ、どー違うんだよ。
岳だ。
明日から修学旅行! っつー訳で近所の駄菓子屋におやつ買いに来てんだ。
ん? 修也達なら居ねーぞ。だってさ、やっぱおやつ交換の時に楽しみは取っとくもんじゃん。
ちなみに、バナナはおやつに入るらしい。
「もういっそバナナばっかり持ってってやろーかな」
「だめ! それは絶対だめよ岳ちゃん!」
「んぁ? あ、飴ちゃん姉ちゃん」
語呂悪いかな。
店の奥から出てきた女子大生、本名は忘れたけど、店の名前が『ミタチ』だからミタチって名字なんじゃねーのかな。
いっつも飴食ってっから、飴ちゃん姉ちゃん。
「なんでバナナ駄目なんだよ?」
「だってバナナはうちに置いてないんだもの!」
なんちゅー理由。
「ほら、修学旅行のおやつなんでしょ? だったらこの棒付き飴がおススメよ!」
「棒付き禁止なんだってさ」
しおりに書かれてたおやつの飴はぺろぺろキャンディだったんだけどな。
「ふーん、じゃあこっちの新発売! 黒い物体X飴は!?」
「何だよ黒い物体Xって!?」
正直すぎだろ商品名!
「Xは分からないモノを現すの」
「わけわからんモン進めんなよ!」
実験台かオレは!
「ちょっと怖くて食べられなくって……」
ほんとに実験台かよ!
「飴なら何でも食らいつくすって言ってたじゃんか!」
「二年前の話でしょ!? 記憶力良いね岳ちゃん!」
何か印象的だったから。
「と、とにかくほら、コレのお金はいらないから……ね? 食べてみてよ」
「ね? じゃねーよ! そんな怖ーモン食えるかよ! 腹壊したら洒落になんねーぞ! せっかくの修学旅行なのに!」
「お腹壊したらお薬サービスするから!」
「んなサービスいらねーよ!? ってか置いてんのか!?」
駄菓子屋に!?
「ううん、お姉さん家の」
なんだ……びっくりした。
「ところで岳ちゃん」
「あん?」
「これ食べて♪ お姉さんのサービス」
何だよこの飴。黒っ。
コーラ味か? ……にしちゃ黒すぎるし……。
「飴ちゃん姉ちゃん、これ、黒い物体X飴じゃ……」
「ううん! 違うよ、これは新発売のブラックキャンディ」
「どっちにしろ黒じゃねーか!」
うわー、何か、鏡並に光ってて不気味なんだけど。顔映ってるし。
「ほら、噛んだら黒くなるガムあるでしょ。あれの飴ちゃん版よ」
あやしー。
「まあ食べてみてよって」
口ん中突っ込まれた! あぐ。
「あ、へっほーんめぇ」
「ほんと!?」
おいこら。
「へー。美味しいんだ。この黒い物体X飴」
「やっはりひか!?」
んー、でもうめーし、いいや。
……うめーけど、何味だこれ。
何か、例えようの無い味だ、とだけ言っとくけど……。
「飴ちゃん姉ちゃん、これの包み紙見せてくれよ」
…………あれ?
「何で口抑えて蹲ってんだ?」
「まままま」
まままま? えー、と。
「魔神!」
「しりとりじゃなっ……うぷ」
あん?
「どーしたんだよ」
「まままま」
「ままままじゃわかんねーよ」
「不味いっ!」
はぁ? めっちゃうめーじゃん
「何コレ! よく食べられるねこんなの!?」
「はぁ?」
あ、それっぽい包み紙めっけた。
えーと、原材料は……書いてない!? なんで!?
本来なら原材料が書かれてるところには……。
『味の感じ方には個人差があります』
いや、薬の効き方じゃねーんだぞ?
『次作をお楽しみに』
どーゆーこっちゃい。
『あ、そうそう、分量適当なので毎回味が違うかもっ☆』
かもっ☆じゃねーよ! 適当にすんな! 機械で作ってんじゃねーのかよ!
『でも一回目で旨いと思った君なら大丈夫!』
何で励まされてんだ!?
『ではでは^^』
何で途中から話し言葉になってんだよ!
「……飴ちゃん姉ちゃん、大丈夫か?」
「う、ん。うん、おさまった……」
旨いんだけどなぁ。これじゃあんまり交換できねーよな……。
うーん、でもやっぱ持ってきたいし……。
「飴ちゃん姉ちゃん、黒い物体X飴とポッキーくれ」
うん、我慢できん。
「はーい。あ、笛ラムネどう?」
「あ、欲しい」
「はいはーい、全部で二百円ね」
お、ぴったり。二百円以内なんだから二百円もいんだよな。
にしても……黒い物体X飴、略してエク飴、五円なのか? 安っ。
「岳ちゃん……」
「あん?」
「お腹壊す前に食べるのやめた方がいいよ!?」
進めたの誰だよ、エク飴。