242 誰だって喧嘩はする
「忍~」
「……ん? 桜」
「どうしたの?」
「何が」
「テンション低いんだもん」
高山妹のテンションなんていっつも違うじゃねぇかよ。
岬だ。
断じて美咲ではない。だんっじて!
朝のSHRが終わって、一時間目までの小休憩。
高山妹は何かぼーっとしてるし、高山兄はSHR終わった瞬間どっか消えるし。あぁいや、本とにパッと消えたわけじゃないぞ?
「忍~? 何か暗いよ?」
「んー、そうか?」
口調が変。まるで高山兄だ。なんっか違うけど。
「何かあったの?」
「……別に」
どうしよう、急に怖くなって来た。
だって名に高山妹が暗すぎるから。
なぁ、何で無表情崩さねぇの? 高山兄のまねでもしてるのか? だとしたら結構似てるからもう止めろ!
あんなのは二人もいらん。
「あっれー? 岬、純知らねーか?」
あん? 高崎か。
「どっか行ったけど」
「う、嘘だろ……数学の宿題写させてもらおうと思ったのに!?」
自分でやれよそんなん。俺も基本誰かの写しだけど。あ、今回は自分でやったからな!?
「あ、戻って来た。おーい純!」
キーン コーン カーン コーン
あ。
「嘘だろ……」
大丈夫、数学は五時間目だから。
「じゃあね~、忍」
じゃあねって、お前の席高山妹の後ろだろ。
何でわざわざ前に行ったんだ、山内。
「ん」
「あれ、純くん。何処行ってたの?」
「一階」
なんてアバウトな。
「ね~村田くん。どうしたのかな、忍」
「いや、俺に聞くなよ」
「だって隣に居るんだもん」
確かに俺の席は通路挟んで隣だけど……。
「本人に聞けよ」
「別にって言うんだもん~」
「高山兄は」
「同じ答えするんだもん~」
いつ聞いた!?
「あーい、あーい、授業始めるぞー……」
先生の顔が強張っていく、ついでにクラスの全員の顔は既に強張った後。
だって、な?
夏休み終わった直後にくじで決めた今の席、高山兄妹は横に並んでいて、そこはクラスの丁度中心。
で、何故か今、そこから『ざ・険悪』って感じのオーラが出てたら……なぁ? 顔の一つや二つ、強張るだろ?
いや、一人一つしかねぇけどよ。
「えぇーっと、授業、始めて、いいのかな?」
戸惑うなよ。
「あ、あの、高山?」
『どっち』
「いや、両方……どうしたの?」
『別に』
「いや別にじゃなくてね……。聞かせてくれないかな」
『こいつに聞け』
怖い、一々怖い。
何でわざっわざハモる訳!? で、何かいつもより声のトーン低いぞ!?
仕草までシンメトリーで同じだし……。そっぽ向いたり、相手指したり。
何か、本当に兄妹なんだなって改めて思うな。……いや、険悪すぎて思えねぇ。前言撤回。
「じゃ、じゃあ高山さん、何があったの?」
「このクソ兄貴に聞け」
高山妹、マジで何があった。
「高山くん……」
「このクソ妹に聞け」
腕組みしてそっぽ向く。うわー、きっちりシンメトリー。
身長差が結構あるのがちょっと残念。……いや、そんなのんきな事考えてられねぇや。
「えぇっとー」
「せんせー、この二人、ただの兄妹喧嘩ね。いい?」
海中……ただのだって?
『ただの兄妹喧嘩でここまで周りを巻き込むかぁあああああっ!』
「巻き込んでるつもりは無いと思うけど……。なぁ?」
さすが幼馴染。
「忍、ほれ、何があった?」
「ん……純兄の留守中にさ、D〇のパズルゲーム見つけてやってみたんだ」
あぁ、いつも通りに戻った。
「で、余に難しすぎて凄くムカついて……ゲーム機叩き割っちゃって」
そら高山兄も怒るわ。
「そこまでならいいんだけど」
よくねぇよ!? どっこもよくねぇよ!?
「壊した衝撃か何か分からないんだけど、データ全部消えちゃって」
そりゃあ怒るだろうな……。
「で、ちゃんと謝ったのに怒られてさらにムカついて殴る蹴るアリの喧嘩になって」
…………。
「で、純兄に負けてさらにさらにムカついて今に至る」
勝てたらすげぇよ。
「ふんふん、純?」
「あのゲーム最初は簡単すぎて面白くねぇんだよ。せっかくいいところまで行ったのに」
なんか……高山兄も所詮中学生なんだなーとか思ってしまった。
「そか。んじゃそのゲーム俺に貸して? やってみたい」
『どうやったらそんな流れになるんだよ!?』
「ここをこー、こーやったら」
身振り手振りでこー、こーやったら、と表現してくれてるけど、分からん。
「ま、そゆことで、先生どーぞ授業始めちゃって」
「え? あ、あぁ、うん」
……どうせならこのまま授業潰れた方が良かった。
オマケ
「純テメェ、これの何処が簡単だよ!? めちゃくちゃ難しいじゃねぇか!」
「だからなっくん、言ったじゃん。ムカつくほど難しいって。あたしやったの、新しいデータだよ?」
「聞いてねぇっ!」
……前言撤回。やっぱ高山兄って中学生じゃない気がする。