240 お兄ちゃんと似てるトコ
「っもう! 何なのよ放射線って!」
「ある一点を中心に放射状に広がってる線のことだろ」
「違うわよっ!」
「ん? 放射性物質から放出されるアルファ線、ベータ線、ガンマ線の総称の方か」
「違うって言ってんのよ! というか、何で知ってるのよ! 習ってないでしょう!?」
おー、扉閉めてる筈なのにめっさ声聞こえてくる。玲奈って喉強いよね。
忍でーす。
今必死になって理科のワークやってます。くそ、まさか理科に宿題があったとは……。テストの日に提出だってさ。
しかも今になって数学にもワークがあることが判明。頑張んないと絶対提出できません。
純兄は自分の部屋で、玲奈と、声は聞こえてないけど清に数学を教えてます。放射線関係ありません。
多分放物線の事だね。二次関数も範囲入ってるし。
「純、ちょっと思ったんだけどさー。ぶっちゃけ数学ってどこで使うんだよ」
「そのうち分かるからさっさと問九やれ」
そのうちっていつ。
えーと、アルカリの水溶液に必ず入っているイオンは――水酸化物イオンっと。
「お菓子持ってきたよ~」
「おー、サンキュー光ちゃん、兄貴には似んなよ!」
「あはは~、清くん、無駄な足掻き頑張ってね~。玲奈お姉さんはテスト頑張ってね~」
「何で毒突く!?」「あ、ありがとっ、光ちゃん」
玲奈お姉さん? 桜は桜ちゃんだったと思うんだけど。
それにしてもお菓子かー、大丈夫なのかなぁ。
「ね~、お姉ちゃん~」
「どわっ! いつの間に背後に……」
「人を幽霊みたいに言わないでよ~」
大丈夫、幽霊なら蹴りかかるから。あたしは。
「ね~、お姉ちゃん~。私って純お兄ちゃんに似てない~?」
え?
「清くんにね~、兄貴に似るなよ~って言われたから~」
あー、似てたらそんなこと言われないって?
んー。
「怒らせたら怖い所は似てる」
「……お兄ちゃんほどじゃないよ~」
うん。なっちゃだめだよ?
「お姉ちゃんは本気で怒ったらお兄ちゃんにそっくりなのにな~」
嘘だ。絶対嘘だ。あそこまではなれんて。
「ね~ね~、他は~?」
「えー? うーん……。若干くせっけなととこか」
「そう言うのじゃなくて~。性格みたいなところ~!」
難しい質問を。
「んじゃ、ハマったことはずっとやり続けるところとかかな」
「……よく分かんな~い~」
「純兄はパズル、光は(変なモノ入れた)料理。何だかんだでずーっとやってるでしょ?」
「料理の前が聞こえなかったな~」
聞こえなくていいよ。聞かなくていいよ。
そういえば純兄はいつからパズルハマってたかなぁ。
光が変なモノ料理に入れ始めたのは確か三歳くらいの時だったけど。
「ぶはっ、げほっ、がほっ」
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!? べ、別に心配なんかしてないんだからねっ!」
……あの。
「光さん、さっき出したお菓子に何入れました?」
「クッキーにね~、小麦粉を包んだの~」
何やってんだホントに。意味あるのかそれ。
「清、粉をまき散らすな。掃除がめんどくせぇだろうが」
「げほっ、こんなことする方がめんどくさくね!?」
ごもっとも。あ、
「楽しそうな事だったらめんどくさがらないのも似てるかな」
後、ちゃんと毎日家でも勉強するところとか。
偉いなぁ、宿題家でするなんて。あたしなんか全部学校でやってたのに。
「そっか~。ちゃんと似てるもんね~、私~」
「うん、似てる似てる」
えーと、アルカリの性質を持つ水溶液にーってこれはさっきやった問題じゃん。
「ななな、純、コレどーやって解くんだ?」
「先ずそれぞれの縦、横、まとまりに入っている数字見て」
「は?」
数独でしょ、それ。
人に教えながら自分はパズルしてんのか、おい。
「ん、どれだ?」
「問十一!」
おぉ、問九と十は自力で解けたんだ!
「わ、私にも教えなさいよ問十一っ! わ、分からないわけじゃないんだからねっ!」
分かってたら聞かないでしょ。
「ね~、お姉ちゃん~。ベッドの上側の壁に穴開いてるよ~?」
「嘘?」
「ホントだよ~。何か小人さんなら通れそうなくらいの小っちゃい穴~」
小っちゃくねぇよ。壁の穴にしちゃ十分でけぇよ。
妙に純兄達の部屋の声聞こえると思ったら……。
「おや、忍殿」
「ごめん、一t法師。床に穴が開かないうちに外行ってくれる?」
「いきなりそれでござるか!?」
「その穴何? 八つ橋あげないよ?」
「はっはっは、それはもういいのでござる。爺婆の事はもう忘れたのでござる」
忘れんなよ。
「ではさらばでござるっ!」
しゅばっとか音立ててどこ消えた!?
忍者かお前!
…………あれ? 何かお隣のベランダに見覚えのない穴が。忍者にはなれんな。
「ちゃんと修理代払いなさ~い~」
にこっ。
「わ、わ、分かったでござるぅっ!」
……笑顔が怖い所も似てるな。