239 ある八つ時の蛍光灯
忍です。
今日は珍しく兄妹そろって仲良くお八つ食べています。
せんべいと牛乳。だれだこんな妙な組み合わせにしたの。
「…………あ」
「ぺか~っ……ぺかぺか~っ」
「見てて哀しくなるモノの一つだよねー」
「そうか?」
さぁ、何を見て会話してるでしょう。先に断わっておくとお八つではありません。
答えは台所の切れかかった蛍光灯です。
ほら、みてて哀しくならない? 一つだけ光っては消え光っては消えしてるヤツ。
ちなみに他の見てて悲しくなるモノは、んーと、たとえば電池が切れかかって途中から上に行けなくなってる時計とかかな。
「これって替えあったっけ」
「無いよ~。こないだうっかり折っちゃった~」
『何やった!?』
どうやったら『うっかり』蛍光灯なんか折るの!?
「ん~とね~、はーちゃんがばしゅーんで~、さっちゃんがどどーんで~、みーちゃんがみょぉ~んで~、私がほらりらんだよ~」
何と不思議な効果音でしょう。
「春がばしゅーんはなんとなく分かった。さっちゃんと美代がどうしたって? っつかさっちゃんて誰だ。バナナが大好きな童謡の子か?」
バナナが大好き、ってところで天を頭に浮かべてしまった。サッちゃんだったね、はい。
「さっちゃんはね~、同じクラスの子で~、変なあだ名付けるのが趣味の女の子だよ~」
「ん、そか」
「好きなタイプはね~」
「誰もそこまで聞いてねぇよ」
「純お兄ちゃんだって~」
接点あるの? ってか意外にモテるのねこの兄。
ぶっちゃけ小四にそんなこと言われても困るだけだと思うけど。
「ん、光、そのさっちゃんとやらに謝っとけ」
「え~、可哀そ~、さっちゃん~。人生できっかり五十回目の一目惚れなのに~。記念すべきなのに~」
さっちゃん、あんたはどんだけ惚れっぽいんだ。惚れすぎだろ明らかに。
「でー、話戻すぜ? 何があったんだよここで」
「だ~か~ら~、はーちゃんがばしゅーんで~、さっちゃんがどどーんで~、みーちゃんがみょぉ~んで~、私がほらりらんだよ~」
ふむ、はーちゃんがばしゅーんでさっちゃんがどどーんでみーちゃんがみょんで光がぬらりひょん? 何か違う。
「分かるかぁっ!」
「春が猛スピードで何か繰り出して、さっちゃんが四股ふんで、美代が跳んで、光がそれを楽しんで見てた、とか?」
『兄ちゃんすげぇ』
どうやったら分かるの!?
なんっか違う気がするけど。特にさっちゃんが四股ふむとこ。
「ちっちっち~、違うなぁ~。はーちゃんはね~、凄いスピードで一直線上に跳び回って暴れてたんだよ~」
イノシシを連想した。
「さっちゃんは椅子の上に立ってえへん~ってしてて~」
『女王様とお呼び!』って感じなセリフを思い出した。
「みーちゃんが中腰でちょろちょろしながら椅子の下から顔だしたりしてて~」
プレーリードッグが頭の中に登場した。
「私は色んなことをほや~っとやってたんだよ~」
プレーリードッグがほや~っとお茶を飲んでる映像がめちゃ鮮明に頭の中に展開した。
えーっと、何の話してたんだっけ。
「それでどーやって蛍光灯折ったんだよ!?」
あぁ、それだそれだ。
「はーちゃんがばしゅーんで補完してた地下倉庫開けちゃって~」
……ん? はーちゃんなら閉めるでしょ、うっかり開けたところ以外。
「どうやって開けたんだ? 跳び回るだけで」
「私が引っかかるように取っ手立てといたの~」
ほらりらんが最初に来るのか。どこがどうほらりらんなんか分からんけど。
「で~、みーちゃんがうっかりその中に落ちちゃって~」
そんなにスカスカだったっけ。
「そしたら蛍光灯見つけてさっちゃんに献上したら~」
献上て。
「さっちゃんが受け取り損ねて落としちゃって~」
椅子から降りろよ。
「で~、それを取ろうとして椅子から降りたらうっかり蛍光灯の上に降りちゃって~。ポキッ♪」
やっぱ降りるな。もう遅いか。
「そか」
「どーするよ、この蛍光灯」
「ほっといても害はねぇだろ。あ、親父がこっそり買ったと思われる豚まん発見」
『グッジョブ!』
冷蔵庫にドンと入れてる時点でこっそりじゃないけどねー。
あー、せんべいと牛乳意外と会うかも。