233 あるものに乗って夜の住宅地をを走り回るあるもの
「夜に自転車で走り回りたいな~」
「突然何言いだすんだよ。ドラキュラかお前」
『…………』
岳だ。
しくった!
突っ込みしくった!
何だよ、ドラキュラかって! ドラキュラがチャリ乗って夜の住宅地走り回んのか!?
もしくはドラキュラは何か突然言い出すのか!?
「……お兄ちゃん~、ドラキュラってどういうものだと思ってるの~?」
えー? ドラキュラだろ?
「何か黒い角があってー、んで紫のマント着てて、牙が生えてて、で髪が黒くてちょっと逆立ってるかオールバックで、マントの中にはタキシードだな」
「ぐ、具体的~……」
何か悪いか? ドラキュラってこんなんじゃなかったっけ。
「でも~……。ドラキュラのマントって黒じゃないかな~。裏面は赤~」
そーか? 翔に借りたマンガじゃ紫だったんだけど。
「あのマントリバーシブルなのかな~?」
「知らねーよ!」
「そうだ~、外行こ~?」
ぜんっぜん話繋がってねーよ!?
しかも今夜だし……よく見てみりゃ時計二十一時代ってなってるし。
「ね~、行こうよ~」
「いや、行こうよ~じゃなくてだな……」
「夜に外出てみたくないの~?」
……出てみてーけどさ。
「母さんとかにーちゃんとかがダメっつーんじゃ……」
「こっそり行けばいいよ~」
「母さんはともかくにーちゃんにこっそりが通用するか?」
「頑張ろ~!」
結局行くのかよ!
「岳~、光~、外行くなら上着の一枚は着なさいよ~。結構冷えてるから~」
行く前に気づかれた!?
「……なんだかんだで何も言われなかったね~」
「にーちゃん仕事だっつってたしなー。まぁいーじゃん、外出れたし」
にーちゃん、まだ怪我してんのに何の仕事すんだろ。死神に書類仕事とかあんの?
それにしても、意外と冷えてんな。上着着ててよかった。半袖一枚じゃ確かに寒ぃわ、こりゃ。
上着っつってもパーカーだけどさ。
「静かだね~」
「え、そーか? 虫鳴いてんじゃん」
「それ含めて静かだね~」
……あ、静かじゃねーや。
向こうからめちゃ喧しい声と共に何か来る。
「なー光」
「うん~、ムードぶち壊し野郎を殴ろうか~」
関節ポキポキ鳴らすなよおい。笑ったままそれすんな。
「ぶっちゃけ賛成だけど」
あ、でも殴ったら怒られるかな。一応相手大人だろうし返り討ちってことも……。
「オラァ! オラオラオラオラオラァッ!」
「光」
「うん~、やっぱり逃げようか~」
声的にあれだよな、暴走族か何かだよな?
にしちゃバイクの音しねーけど。まさか自転車?
あ、街灯で姿が見、え……。
「光」
「本当に居たね~」
チャリに乗って夜の住宅地を走り回るドラキュラ。
が、こっちに向かって来る。
怖っ!?
「光、逃げんぞ!」
「あ~、あのドラキュラさんのマント黒と赤だよ~。私の勝ち~。百円ちょ~だい~」
いつ賭けになったんだよ!?
とりあえず今は逃げる方が先だよな、っつってもチャリ乗った奴からどうやって逃げんだよ。
木ぃ登んのか? ねーちゃんじゃあるめーし。
「あ~、お兄ちゃん~、こっちに細い道がある~」
「お、んじゃそっちに逃げるぞ!」
「了解~」
……ふぅ。
「……いきなり逃げるなんてどぉ~ゆうつもりなんですかねぇ?」
『きゃぁあああああっ!』
「いきなり叫ぶなんてどぉ~ゆうつもりなんですかねぇ?」
怖ぇよ! 何無理矢理この細い道に自転車ごと入ろうとしてんだよ! 降りろ!
って、そーゆー問題じゃねーか。
「ちょ、光! もっと奥行け! 反対側から逃げんぞ!」
「お、お兄ちゃん~、こっち……行き止まりだよぉ~」
「嘘っ!?」
「ふふふ、いきなり袋のねずみなんですよねぇ?」
その喋り方ヤメロ、怖ぇから! しかも何? 何か目の周りに紫の線とか書いてるぞこいつ。
あれか? コスプレイヤーってやつなのか!? でもドラキュラのコスプレならハロウィンにしろよ!
「さぁ~、楽しい夜の始まりですよねぇ?」
『おーまわーりさーん(~)!』
っつか、この行き止まりの家の奴も気付けよ! オレ等ずっと大声で話してんだぜ? 何で気付かねーの?
「ふぅ……光、とりあえず落ち着こう」
「何で~?」
落ち着くの早ぇな、さっきまで『このへんに隠し扉とかないかな~?』とか言ってたくせに。
「いーか、光。こういう時にーちゃんやねーちゃんならどうするか考えんだ! んでそれをやる!」
「そんな無茶な~!」
光の中でにーちゃんとねーちゃんはどーなってんだ。
オレん中? えー……にーちゃんはあれだ、めんどくさがり屋の残念なオールマイティ。ねーちゃんはー……掴めん。
あ、何かオレも無茶だろって気がしてきた。
「ま、まず楽そー方から考えるぞ。ねーちゃんならどうする?」
「相手で遊ぶ~」
「あぁ、そっか」
…………。
それをして何になんだよ!?
「ちょ、もーちょい真面目なのねーのかな……」
「この壁を腕と脚つっぱって登って~。塀を歩いて逃げる~」
あ、それいーじゃん。
「んじゃちょっと登ってみっか」
「頑張れ~」
何でおめーは見てんだよ。
ま、いか。
えーっと、手足つっぱって登るんだよな。家の壁でやったことあるから楽勝だぜ。
「あ~、お兄ちゃん上~!」
上?
ゴンッ
「痛っ!」
何だよ! 何で上に板なんかのっかってんだよ!
「ふふふ、これがホントの袋のねずみですかねぇ?」
オレ等はねずみじゃねぇし、ここは袋じゃねぇっ!
えーい、こうなったら……。
「にーちゃんならどうする?」
「純お兄ちゃんなら~……まずこんな事態に陥らない~」
「それ言ったら何も話が進まねーじゃんかよ!」
「……言葉で相手をどかす~?」
にーちゃんがそんなめんどくせーことするか?
「っつか、オレ等そんなことできねーじゃん」
「じゃあ~、変人変体ドラキュラさんをぶっ飛ばす~!」
よし、んじゃあそれで行こう。
「何をするつもりなんですかねぇ?」
行ける、行ける、オレだってにーちゃんの弟なんだ! アイツぶっ飛ばすくらい余裕だっつの!
「オラァッ!」
「ごふっ!?」
あら? けっこうあっさり。漫画みてーに蹴り決まったなぁ!
わき腹だからけっこー痛いんじゃねーの? っつかいい加減チャリ降りろよ。
「と~っ!」
んぁ?
「ぎゃふっ」
あ、光がトドメにドロップキックした。
いやいやいや、顔面にそんなもんすんなよ。スカートめくれてんぞお前。ってかジャンプ力すげぇ。
あーあー、気絶しちゃった。やっと自転車から降りたな。いや、落ちたんだけど。
「あ、めっけた。純兄、居たよー!」
「ねーちゃん!」「お姉ちゃん~」
何で居んだ?
「……どーしよっかな、これ。やっぱ交番? お巡りさん?」
「お姉ちゃん~。何でここに~?」
「チャリ乗って夜の街を走り回るドラキュラが居ます。それに興味を持たない奴が何処に居る!」
そっち!?