231 プログラム最後だよ
「ほんっとにどうなってんだよ今年の体育大会!」
「きゃ~、純くんが機嫌悪~い」
半端なく怪我人だらけなんだもんねぇ。
体育大会前の純兄を始め、三年一組は全員怪我したし、すれ違う別のクラスの人もほとんどが包帯とか伴奏とかつけてるし……。
忍でーす。
色対抗リレーが終わり、最後の競技、三年の色対抗全員リレーが始まろうとしています。
何でこれが最後? 普通色対抗リレーを最後にしない? 一番盛り上がるんだから。
「テメェ等、今度は怪我すんなよ。んで、俺にすぅっげぇめんどくせぇ事させたんだから一位とれ」
なんちゅー理由だ。
『アイアイサー!』
そしてどこの軍隊だここは。
『じゃあ任せた高山妹!』
「任された」
……けど、じゃあって何!?
「はーい、トップバッタージャンケンしてー!」
最初の位置を決める大事なジャンケン。ぶっちゃけ最終的には全員内側に入るから順番関係あるのかとか思うけど。
「さーいしょーはグー、じゃーんけーんぽん!」
……あ。負けた。一人負け。
「……ねぇー」
「大丈夫! 君はやれる!」
あたしが何を言おうとしたと思ったんだろう。この人。
「そうだ! 一番外側だからってなんだ!」
「高山さんは速いよ! 自信持って!」
「いっけぇ! 高山妹!」
「あの高山兄の妹なんだから行ける!」
……何か泣きそう。何でクラスの皆に励まされてるのあたし。
言おうとしたこと忘れたじゃんか。
「位置についてー、よーい」
パンッ
よし、何か知らんが励まされたんだし、頑張ろう。
「行っけー!」
「ゴーゴーシノブ!」
誰、今外国人みたいな言い方したの。
「あい、頑張れシジミ」
って言ってバトンを渡すと、
「紫波だよっ」
って笑って返された。
お、紫波……遅い!
騎馬かおんぶの上にのっときゃ良かったのに……。
「紫波ぃいいい!」
「がんばれーっ!」
「シジミって呼ぶぞ!」
脅し?
「そう言えばシジミの名字って何? 清かなっくん、知ってる?」
「汽水だったと思うぜ?」
何だ、シジミでいいじゃん。むしろあってんじゃん。
「ありがと清。二人三脚がんばれー」
えーっと、順位は……あら、三位。
「頑張れよ、二人とも?」
『ぴゃいっ』
何か笑顔の純兄に話しかけられた途端、二人とも気をつけしたんだけど。……怖いもんねぇ。
「あと忍はちゃんと列に並べ」
「はーい」
あ、清となっくんにバトンが渡った。
……速い。
何か、めっさ速い。
二人三脚なのに、二人とも全力疾走してる。
純にーぱわー?
「海中くんすごーい!」
騎馬に乗るっぽいポニーテールの子、清は?
……おぉ、なっくん達の次の二人三脚も速い!
もしかして、一位まで上れるんじゃ……。
「よっし! 青組抜いたぁああああ!」
「赤も抜かせ! いけいけいけいーっ!」
む、後ろから黄組が追い上げてきた。
次はおんぶだね。何でおんぶや騎馬があるのか不思議だけど、そこは突っ込んじゃダメなとこだよね。
大熊小熊コンビこと、大熊と小熊。
体格は名前(ってか名字)と同じなんだけど……大熊が何で小熊の上に乗るの!?
逆でしょ体格的に!
「が、頑張れ小熊!」
「大丈夫、落着いて!」
小熊は落着いてるけどね。
あ、バトンが渡った。
瞬間、小熊がトンデモな勢いで走りだした。
あれ、小熊こんなに足速かったの!? とか、どーなってんのこれ、とか、色々渦巻いてるのかちょっとの間静かになって……。
「いーぞー! 小熊ー!」
「すっごい!」
「ってか大熊でけーくせに目立たねー」
とか、いろんな声が飛び交う頃には次の子にバトンが渡ってる。
しかもさりげなーく赤組抜いて一位になってるし。
いーじゃん。
「篠ーっ! ガンバレー!」
ん? あ、本とだ。 清の声聞いて気付いたけど、しーちゃんだ。下の子。
で、上には玲奈。
「純兄、小さい子が大きい子を負ぶうのが普通なの?」
「だったら光は潰れてる」
あー、光、おんぶ好きだったもんねー。
何で逆の事してるんだウチのクラスの人たちは。
しかも何気に皆速いし。
……あー、流石に騎馬では小さい子が上に乗るか。
騎馬、第一号が発車いたしました。……発馬かな?
んー、流石におんぶの時よりスピード下がるかー。
……とかのんきに思ってたらね、黄組がでっかい子乗っけて少し速かったりね。
何? 大きい子を上に乗せると走るのが速くなるの? 確かに速く降ろしたい一心で速くなるかもしれないけど!
ま、まぁ、二人三脚とおんぶとで結構速かったからまだ差はあるけど……。
……お? 次アンカーか、うちのクラス。
「海中くん、見ててね!」
もしもし、貴女が見ているのは白組の旗であってなっくんではありません。
「ポニ子ぉっ! 後は頼んだっ!」
「うんっ、走るの私じゃないけどねっ!」
騎馬だもんね。
……ポニ子って言うのあの子。
「いついかなる時もポニテだからだと。本名馬子。おもしれーなぁ」
なっくん、いつ来たの。
「……アンカーが騎馬の中で一番遅い」
誰かが言った、この言葉。
これでちょっとひゅうっと冷たい風が吹き……
「何か黄組、大分追い上げてきてる」
さらに誰かが言った、この言葉で……
白組の列が、凍る。
「だぁああああ! 白ぉおおおおっ! がんばれぇっ!」
事は無かった。
「ポニ子! もう少し体重軽くしろ!」
「無茶言うなよおい」
あ、黄組がもう真後ろに……でも、
「ゴールまでもう少しだ! 持てっ!」
「黄の邪魔しろ! 邪魔!」
選手宣誓で『正々堂々と』って言った人が言うなよ。
パンッ!
勝った!
『セェエエエエエッフ!』
一瞬の間があって、
『いよっしゃぁああああ!』
何か皆が皆に色々もみくちゃにされた。
正直に言おう。痛い。楽しいけど。
「やったな!」
「あー、なんかもう、何か、ほら、こう、こうだ!」
「何かわかんねーけど分かるー」
で、ぞろぞろと応援席に戻ろうとして。
「おいコラ、退場してねぇぞテメェ等。勝手に戻るな」
応援席から現実に引き戻された。