225 プログラム一ばぁーん
白い鉢巻ぎゅーっと絞める!
「くぁー、いっちゃん最初から出なきゃなんないのか」
うん、そんな事で眠気が吹き飛ぶもんか。
「眠そうだね~、忍」
「うん、桜って確か徒競走の補欠だったよね? だから出て」
眠い。なぜなら今日は、起こされたわけでもないのにやたら早くに目が覚めたから。くぁー。
眠気全開ですいませんね、忍です。
今日は待ちに待っていたわけでもないけど、一応は待っていたかもしれない体育大会です。
立ったままうつらうつらしているうちに開会式が終わり、プログラム一番、徒競走が始まろうとしています。
……あ、あたしも並んどかないと怒られる。
「いってらっしゃーい」
「行って来まーす」
桜と手を振り合い、いざ出陣! というような気力は残ってませーん。あしからず。
きっと脳がまだ寝てるんだ。うん。
ちなみに、個人競技は徒競走か障害物競走から選べます。選択競技です。
「あ、忍」
……今一番会いたくない奴に出会った。
ってか、一方的に向こうから来た。先生のサポート役でもしてるのかなお兄さん?
「純兄、四位でも怒らないでよ?」
「いや、一位にならなかったら怒る。だって一緒に走るの、テメェより遅い奴ばっかだろ?」
脳! 今すぐ起きて! お願いだから! 純兄に怒られるのはごめんなんだよ! 耳に目覚ましつっこんだろか! とか思ったけどそんなことしたらダメージ受けるのあたしだよねって脳もあたしの一部ですよなんで体起きてるのに寝てるのおーい!
……とかね、考えられるんだから脳は起きてるよね。
「んと、努力しまぁーす?」
「ん」
おー、怖。
「忍」
「あ、しーちゃん。あたしの前だったんだ」
「どうしよう」
うん? しーちゃんの口からそんな言葉が出てくると不安になるんだけど。
「あたしと走るの、何か速い奴が居るんだけど」
……五十mのタイム遅い順で並んでるのに?
「気のせいだよ、気のせい。うん」
「いや、学級対抗リレーに出るような奴が、補欠で……」
おー、クラスでニ、三番目に速いような奴が?
あ、学級対抗全員リレーとは違うのでそこんとこよろしく。
「……あれ? 学級対抗リレーに出る奴って全体的に補欠できないんじゃなかったっけ」
前に柿ピーがそんな事言ってたような……。
「そうなのか? あ、おい、じゅーん」
「ん? どした」
「学級対抗リレーに出る奴って補欠できないのか?」
「そりゃな、補欠にそんな奴が入ったらあっさり勝負決まるし。色別対抗の選手も無理だ」
色別対抗リレーは学級ごとに男女それぞれ一番速い奴が走るもんね。そんなのが補欠に入ったら面白くない。
「そこに学級対抗リレーの選手が入ってるんだけど、補欠で」
「あ、あれ? あたしの事?」
今さら気付きましたか、青山。
「黄組か。もう一人補欠がエントリーされてるはずだろ?」
「え、でもあの、綾香得点係の仕事行ってて……」
綾香って誰。
「ん、呼び戻せ」
「今から!? え、ちょっ、もう二年女子終わりかけて……」
一年男子、女子、二年男子、女子、三年男子、女子の順番で走っています。
感想を一言。青組、強っ。
そして何気にスタートの合図する先生が赤組のフライング見逃してるぞ、おい。一秒にも満たないようなフライングだけどさ。フライングはフライングだぞ!
「三年男子がやってる間に行けるだろ?」
「えぇーっ、あたし徒競走出たい!」
「知るかよ」
……純兄、そんな態度とってるから『高山兄ぶっ飛ばすぞー!』って言葉で皆の士気が上がったりするんだよ。
あたしも今のはおんなじ事言いそうだけどさ。
「呼んで来なかったら赤組は不戦敗だぞ?」
「何でっ!?」
「いやだから、学級対抗リレーに出る奴は補欠で走ったらダメなんだって」
どんどん純兄が機嫌悪そうな顔になってくる……。
「あ、三年始まったぞ、忍」
「えー、どれどれ?」
見てるのは怖いので視線を逸らそう。
お、白組速いじゃん。いけいけーっ!
…………あ、コケた。誰だアイツ。紫波か! シジミか! あーあ、ビリになっちゃった。ドンマイ。
「しーちゃん、今さらだけどさ、三年ってクラウチングスタートなの?」
「本とに今さらだな。三年だけじゃなくて二年もそうだったでしょ。……はぁ、苦手なのに……」
あたしだって苦手だよ。何でわざわざ手ぇ付くの? 走るときには付かないじゃん!
ざ、屁理屈。
言った所でどうにもならない。
「あ、しーちゃん、次、清だよ」
「うー? 余裕で勝つよ。清は速いから」
相手を見もせずに言い切ったね。ところで何、足元の砂である意味芸術とも言えるような物体を作り出してるの君。
あ、ちょっと目を逸らしてる隙に清がゴールイン! 本とに余裕で一位だー。
「ところで、青山どこ行った?」
あれ、居ないの? 綾香とかいう子を呼びに行ったのかな。
「出たいのにー、出たかっただけなのにー」
違った。そこでしゃがみこんで駄々こねてるだけだった。しかも何かこっちも砂で、ある意味芸術作品を生み出しているのですがいかがいたしましょう。
「高山さーん、おーい」
「はい?」
「足、押さえててくれるかな、クラウチングスタートだから……」
あ、ごめんなさい黄組の知らない子。
……って、もうあたしの前!? さっき最初の子が走ってった所だよ!? さくさく行きすぎじゃない!?
「はぁ、はぁー、間に合った?」
お、綾香ちゃんらしき人の到着。凄く息切らしてます、これで走ったらまず間違いなくビリでしょう。
「ん、行ってらっしゃい」
「鬼かアンタ!?」
あ、突っ込んだ。
「ほら、もう始まってるぞ。今から行っても四位にはなれる。頑張れ」
「それビリよねぇ!?」
「大丈夫、ビリでも一点もらえる。行かないよりマシだろ?」
「位置についてー」
あ、残念。今行ってももう得点もらえないよ。
「よぉーい」
はい、用意しましたっと。
「忍、一位な」パァン!
何か最後に凄いプレッシャーかけられたんですけど。