223 素直な泥棒
「うあー、疲れたー」
「お姉ちゃん~、大丈夫~?」
大丈夫かなぁ。大丈夫なのかなぁあたし。
とりあえず疲れすぎててよく分かんない。
「はい水~」
「……変なの混ぜた?」
「酷いな~、塩をちょっぴり混ぜただけだよ~、しょっぱくないから安心して~」
あ、ちょうどいいや。汗かいたし。ナイス光。
「ありがと」
「うん~。何してたらそんなに一瞬で水飲めるまで疲れるの~?」
えー、何って……。
「バク転、純兄の指導の下……」
「それだけ~?」
純兄のスパルタ指導を舐めるなー。
鬼どころの話じゃないからね、ホントに。
出来ても何か小っちゃいことにケチ付けるんだよ。
純兄曰く『演技でやるんだから綺麗に出来なきゃ意味ねぇだろ』だって。あたしはやらないのに!
「純お兄ちゃん~。あれ~? 純お兄ちゃんは~?」
「うー? 部屋じゃない?」
「行こ~」
「何であたしも?」
「もうちょっと緩くしてもらおうよ~」
「んじゃ行く」
じゃないとあたしの身が持たない。
「……あれ、いつかの泥棒のおっさん」
「あ、どうも、ごぶさたしてます」
「あ、ご丁寧にどうも」
……じゃなくてっ!
「何で居んの!? ねぇ、純兄!?」
「ちょっと呼んだ」
「どうやって~?」
「泥棒ーって」
なんつー原始的な呼び方だ。何のために連絡先聞いたの、あの時。
ってか、それで来るおっさんもおっさんだ。
「で、なんで呼んだの?」
「本買いに行きたかったけどめんどくさくて」
このめんどくせぇ病! 確かに足怪我してりゃめんどくささも倍増かもしれないけどさ!
「で、行ってきてもらった」
「行った後!?」
「いいんですか、五十円もいただいて」
そしておっさんも小学生並のお小遣いでパシられんな。
金銭感覚どうなってるのこの人。
……あ、でも一回手伝いしたら二十円の身としては高く感じる。うーん……。
「おじさん~、仕事何してるの~?」
「泥棒です」
「ひゃくと~ば~ん~!」
「あああああそれは止めて!」
じゃあ素直に泥棒とか言うなよ。
「にーちゃん、台所のテーブルに置いてたオレのダーツの矢が無いっ!」
何でそんなものテーブルに置いてるの。
「うぉ、何このおっさん」
……何か、うちの兄弟ってあたしも含めて失礼だよなぁ。
「おっさん、ダーツの矢盗ったか?」
「はい」
素直だなこの人!
「よし、百十番」
「やめてぇえええええ!」
耳が痛い。
「返せよ、おっさん」
「はい」
あ、返すんだ。
……何で盗ったの?
「それでは私はこれで」
「ばいば~い泥棒さん~」
「じゃーな、どこぞのおっさん」
……ほんっと、あの人の行動訳分からん。