218 昼寝といえば
「……こんにちは」
「ん、誰?」
「…………美代、です」
怒ったか? 流石に『誰?』は無かったか。
美代、美代……あ、
「村田の妹か」
「そう、です。ひー……光ちゃん、居ますか?」
「昼寝中。起こすか?」
純だ。
何で俺が来客の相手してんだろうな。怪我人だぞ一応。
「いえ……上がっても、いいですか?」
「ん、いいぞ」
村田の妹が来たって事は春も来るのか? 遊ぶ時は三人一緒が基本だし。
「純くーん! ひーちゃん居るよねっ?」
「ん。ついでにみーちゃんとやらも居るぞ」
確かこう呼んでた筈。
「…………ついで?」
『ついで』は怒ったか? やっぱり。
「ひーちゃん何処?」
「二階で寝てる。起こすか?」
はっきり言おう。同じ事を二度も言って聞くのはとてつもなくめんどくせぇ。
「ううん。ひーちゃんで遊ぶよ! ねっ、みーちゃん!」
光『で』遊ぶ?
「やっぱ寝た子相手には顔に落書きでしょ!」
「……うん」
「絵の具使うなら布団に落とすなよ」
『止めないんだ……』
楽しそうで俺がめんどくさくねぇ事は認める主義なんだよ。
実際、幼稚園位の時に文月くんにやったら面白かった。っつか、幼稚園児がやったにしては何か芸術品が出来てた気がする。
皐月姉の『どこぞの民族の仮面風』には負けたけど。
「でも、絵の具は使わないよ」
んだよ、面白くない。
「油性ペン使うから!」
「それはやられる方が余にも哀れだから止めろ」
コレも文月くんにやったら、滅茶苦茶怒られた。泣きながら。
正直に言って、額に『肉』とか頬に『我こそは馬鹿である』とか書かれた奴が泣きながら怒るから、まるで怖くなかったけど。
むしろ笑いこらえる方が大変だった。夏なんか笑い死に寸前だったと思う。
「……色鉛筆、は?」
「色つかねぇよ」
どうせ使うなら紙粘土を顔に塗りたくって乾かしてから……窒息死するかも。
「墨汁はどうかな!?」
何で水性ペンスルーしたんだこいつ等。
「純くん、墨汁ある?」
「墨汁は十中八九布団につくからダメだ」
これは最近、死神仲間が『下剋上だよ!』とか馬鹿な事言って妙羅にやったけど……。
妙羅のお気に入りの座布団もとい枕を汚したから、怒った妙羅に頭から墨汁ぶっかけられて。
それの被害がお気に入りの枕にまで及んで、それは完全に真っ黒になった。……妙羅、馬鹿だな。
「あ、じゃあこれは? 鼻眼鏡!」
「かけてどうすんだよそんなもん」
「……どーしよ」
考えとけよ。
「あーもう、絵の具でいいや。ある? 絵の具」
「……あります?」
春は家隣なんだからもって来いよ。俺一応怪我人だっつのに探させる気か?
「光達の部屋漁ったら出てくんじゃねぇか?」
探す気は毛頭なし。
「……人の部屋漁るのは……」
「ちょっと……ねぇ?」
『ねぇ?』じゃねぇよ。
「これから人の顔に落書きしようって奴が何を言うか」
『それもそうだね』
単純すぎるだろこいつ等。
「へ~、私の顔に落書きするの~」
「あ……ひーちゃん……」
「あわあわあわあわっ!?」
おいこら。
何で二人して助けて欲しそうにこっちを見る。