217 クラスが一つになった件
「なぁ、村田。紺と白のムカデが居たら怖ぇよな」
「何か意味分からんが馬鹿にされてるのは分かった。ぶっ飛すぞお前」
純兄がそう簡単にぶっ飛ばされるもんか。
忍でーす。
来週の体育大会に向けて、学級全員でのムカデ練習が始まりました。
上に来ている体操服はもちろん白で、下に来ているジャージは紺色で、ムカデ競争をする時は必ず履かないといけないから……上半分は白で、下半分は紺色のムカデが出来上がってるんですねー。
おぉう、確かにこんなムカデが居たら怖い。
そして、村田が純兄にそれを言われて馬鹿にされたような気分になったのは……純兄が足怪我して参加してないからです。何処で怪我した。おい。紺と白のムカデより怖いよ。
足の怪我は軽くないみたいで、一本とはいえ松葉杖ついてるから……多分体育大会出れないなぁ。
一組の切り札! ……純兄より足速い人、何人かいるけどね。
朝起きなくて結局遅刻した純兄が、これが原因と言い張るのでクラス全員で突っ込んでやりました。
足怪我したのと朝起きる起きないは関係ないだろ!
笑ってごまかされました。普段笑わない奴が笑うとごまかせちゃうのがズルい。
「皆! やるぞーっ!」
『…………』
あ、何か全体的にシーンってなった。
やるぞって言った人、花上は……何でもバスケットをやった時に『やろーっ』って言い出した人。
「何でシケんの!?」
たまにノリで発した言葉が滑る、なっくんの笑いの種によくなる娘。
「と、とにかく! 早くやろ! ね!?」
『何を?』
全員ボケ。始めてやったなぁ。
「ムカデ! 皆で足に繋いでるこれは何!? それはローップ! ムカデ用のローップ!」
『…………』
「だからなんでシケるの!?」
大丈夫、なっくんにはウケてるから。なっくんのツボって分からん。
「はいはーい、ほら、五秒前からカウントするから、走れよー」
柿の種、今までどこに居たの?
「高山――あぁ、純の方だから、お前関係ないから」
何かちょっと傷つく言い方だったのですが、先生?
「何」
「あっちにベンチあるから座っとけ」
「いらん」
「いや、いらんじゃなくて……まぁいいや、本人が言ってるんだし」
まぁいいんだ。
……ところで、ウチの学校のグラウンドにベンチなんて無かったと思うんだけど。
そしてなんか、先生の言ったベンチって言うのがどー見ても手作りなんだけど……。突っ込んじゃダメかな?
「とりあえず、もうちょっと下がってて。突き飛ばされるぞ」
ムカデに?
「やれるもんならやって見やがれ!」
純兄にしては珍しく声を張り上げたと思ったら……。
『やってやらぁあああああ!』
クラスメートの皆さんが反応した。
「そうじゃなくてね!?」
いいじゃん。士気上がったよー。
「行くぞーッ!」
応援団長の迅谷の声に合わせてー。
『いっせーのーでっ! いっちにっ』
走りだ……あれ?
「ちょっと!? コースあっち!」
「ん、来ると思った」
三年一組のムカデはスタートするなり方向を変えて、純兄の方へ突進!
それを純兄はピョコピョコ逃げてるんだけど……。
当然、まさか本当に追いかけるとは思ってなかった人も大勢いる訳で。
『わぁあああああっ!』
こける人が大量発生する訳なんだよ。
「おいおい……いきなりこけんなよ」
無理だろ。
「ちょっ、お前等! とりあえず高山兄ぶっ飛ばしに行くぞ!」
先頭の蔵元、どうやら純兄の挑発に思いっきり乗ったようです。
『お、おぉー?』
「やる気が足りない!」
『お、おぉー!』
「よっしゃ、逝くぞぉおおおおお!」
『逝きたくねぇっ!』
ごもっとも。
「ほらほら、俺を突き飛ばすんだろ?」
『やったるぞこらぁああああ!』
……誰、今蔵元と一緒に叫んだ奴。
「清くん~、耳が痛ぁい」
「五月蠅い」
何だ、清か。
桜と篠と一緒に真中の方に居たんだね……。あ、ちなみにあたしが居るのは前の方。今更ながら。
「迅谷!」
「行くぞーッ!」
『いっせーのーでっ! いっちにっ』
いっちにっ。あ、さっきみたいにこけない。
行先はっきりしてないのに。すげー。
「高山兄ぃいいいいい!」
「顔怖ぇよ」
どんな顔してるの? 見たい。
あ、純兄がこっち見た。何か言ってる。
『般若』
あたしの心の声が聞こえたのか!?
――数分後
『はぁ、はぁ』
「おい、もう終わりか?」
『まだまだぁっ!』
クラスの心が、純兄を突き飛ばす基ぶっ飛ばすことに集中し始めた。
――数十分後
『はぁっ、はぁっ』
「おーい、もう終わり……」
『まだ高山ぶっ飛ばしてない! 柿ピーは黙ってろ!』
余計なものが入った一組の担任はショックを受けて何も言わなくなった。
――さらに数十分後
『待ぁああああてぇえええええ!』
「テメェ等はゾンビの集団か!?」
体力のない人もどういう訳か気力で体力を補い……
「おらぁっ!」
先頭の蔵元がついに純兄をぶっ飛ばした!
……え? ぶっ飛ばした?
「純くんが三メートルくらい上に飛んでる~」
「飛んでるな……」
「やった! やっとぶっ飛ばした! 言葉通り文字通り!」
どんな飛ばし方したんだよ蔵元。
「……純、大丈夫だと思うか?」
『…………』
純兄ピーンチ。
あたし等もピーンチ?
「ちょっ!? 助けに行かないと!?」
誰かが走り出そうとして……こけた。
さっきまで凄く息ぴったりだったのに!?
と、皆で仲良く盛大にこけたところで……。
純兄が持ってた松葉杖を地面に立てる。
それを軸にしてロンダート(側転の途中で体をひねって、両足で後ろ向きに着地する奴)っぽいモノをする。
片足負傷中だもんね、片足で着地するよねそりゃ。
「ん。こんだけ息ぴったりならムカデ優勝できるな、うちのクラス」
でもって何事~も無かったかのように言うので……。
皆、唖然としてた。
兄さん、アンタはどんだけ人間離れしてるんだ。