214 花子さんと悪の強盗
「はーなーこさーん」
「はーなこさん~」
岳だ。
久々に三階の美術室の前にある使われてない女子トイレことトイレの花子さん達の住処に来てみた。
そしたら、
『こないで下さい! ここは私達の家です!』
『あたしの家はあたしの家。あんた等の家もあたしの家なんだよ』
『なんだよーっ!』
何か修羅場っぽい。
一番お姉さんの花子さんと、サングラスの女の霊が向かい合ってる。
オレが一番気になるのは、サングラスの女の後ろで『なんだよーっ!』とか言ったサングラスのお団子女だけどな。
「光、どーする?」
「見てよ~」
鬼かお前。
まぁ、イマイチ状況分かんねーしな。見てよ。
『純さん! 何とか言ってください!』
どーやら見させてはくれないらしい……って、
「オレはにーちゃんじゃねーっ!」
『姉さま、こいつは、こそあど言葉よ!』
「それもちげーっ! 岳だよ! 岳!」
何でこそあど言葉!?
『む? 何だお前』
『何だー!?』
『ここの生徒か、なら当然先輩のあたしの言う事を聞くんだな?』
『聞くんだなーっ!?』
『お前ちょっと黙れ』
『黙れーっ! 痛っ!? 何すんだよ姉御ーっ!』
お団子女が殴られた。でも多分、オレも同じ事するな。
「先輩~? オバサンここの卒業生なの~?」
『だ、ぁ、あ、れ、が、オバサンだってぇ?』
『だってぇーっ!? よく分かったな!』
事実なのか。
『だからお前黙れ』
『黙れーっ! 痛っ!? 何すんだよ姉御ーっ!』
さっきと台詞まるで同じだな。
『ふんっ、あたしはまだ三十だ!』
「わぉ、オバサン」
『黙りな!』
サングラスで睨まれるって怖ぇ。
「それで、お亡くなりになったのは……」
『二十年ま――あ、いや、ついさっき!』
「おばあさんだ~」
『五月蝿い!』
『五月蝿い!』
あ、お団子女復活。
「んで、花子さん、何争ってんの?」
『無視するな!』
『なーっ!』
一文字!?
『皆でお茶してたらですね……』
……まさか、洗剤茶? 飲んでたの?
『そこのおばあさま達が突然、ここを家にするとか仰いまして』
『こら、誰がおばあさまだ?』
『だーっ!? 大正解!』
『いい加減お前黙れ』
『黙れーっ! 痛っ!? 何すんだよ姉御ーっ!』
お団子女、ちょっとうっさいな。……ちょっと?
『えぇい、全く七面倒くさい! とっとと出て行け! おかっぱども!』
『お前が出てけーっ!』
『お、ば、あ、さ、まっ★』
……あれ、華子? 何トイレの隅でじめじめしてんの?
『私が言おうとしてたのに……はなことハナコに言われたわ……ふふ、そうよね、私なんか失敗した折り紙よ……ぐしゃぐしゃになって捨てられるのよ……ふっ、あははははは』
怖っ。
『……お前達……あたしの恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだ。あたしが誰か知らないんだろ? あたしは、生きてる時に銀行強盗から宝石強盗まで悪の限りを尽くした大強盗レーナ様だぞ!』
強盗しかしてねぇじゃん。
『不覚にもイカを喉に詰まらせてこんな事になっちまったけど……』
大盗賊の死因イカかよ。
『大丈夫だ姉御! 僕ちゃんも同じイカを喉に詰まらせた!』
お団子女もかよ!
『今日もお茶が美味しいですね』
『そうだね、ねえたま』
……いやあの、何くつろいでんのトイレの花子さん四姉妹。
何で洗剤茶でくつろげるの。
『無視するなぁあああああ!』
『なーっ!』
「あ、やっと見つけた。多田冷奈じゃな?」
お、死神の誰かさん。
『ひっ!? し、死神だよ姉御!』
『慌てるんじゃないよ! 逃げ道を探せ!』
いや、あんた等壁抜けられるだろ。
んでもって、便器に向かって叫んでるあんたが一番慌ててるよ、婆さん。
「いやー、やぁっと捕まえた! よくもまぁ、二十年も逃げよう思たな?」
『いつ死神に捕まるか分からないスリルが楽しくて。強盗してた時みたいで』
「あ、そうそう、生前何か悪いことして、反省する事無く死んだ奴には地獄めぐりが待っちょうよ」
響きは楽しそうだな。
「どんなの~? 楽しい~?」
「まっさかー! 俺の後輩が一遍行ったけど、引っ張り出さんと戻って来んかったわ」
『うそん』『うっそぉーっ!?』
「知らんかったと?」
『『知らんわ!』』
「ははっ!」
何かこの死神、悪モンに見える。
『ありがとうございます、何とお礼を申してよいか……』
「いや、仕事ですんで、それではー」
……あれ? あの死神、婆さん達置いて行きやがった。
『姉御! あーゆーのを生粋の馬鹿って言うんだな!』
『あぁ。混じりけの無い、とにかく馬鹿だな』
何かこの二人は呆然としたまま――
華子にトイレに流されていった。
オマケ
「お兄ちゃん~、地獄ってどんなとこ~?」
「地獄? ……健康ランド」
「地獄じゃないじゃん~」
「いや、痛い思いして健康になるようなとこ」
「お灸とか~?」
「そう」
……地獄って言うか? そんなトコ。