212 お化け屋敷の意味
「ねぇ純兄、行こうよあれ」
「ん?」
忍の指す看板に書かれてるのは『お化け屋敷』
純だ。
電車で三十分位の所にある、白銀高校とか言うトコの文化祭に来てる。
何か、忍が前に説明会来て、面白そうだったんだと。
んで、一人で行ったら寂しい子みたいだから一緒に来いだと。
「ね、行こうよ。お化け屋敷」
「ん、別にいいけど」
お化け屋敷って……小六の水小祭り以来だな。遊園地とかも行かねぇし。
「はーい、それでは彼女さん、しっかり彼氏さんにに捕まってくださいねっ☆」
「誰が彼女(彼氏)ですか」
「ち、違ったの!?」
『兄妹です』
「はわはわ、これはごめんなさい! ……いいなぁ、文化祭付いて来てくれるようなお兄ちゃん居て」
俺は単純に好奇心から来ただけなんだけど。
「純兄、小っちゃい時のノリのままだから勘違いされるのかな?」
「知らん」
うわ、中真っ暗だ。
「……迷子になるに一票」
迷路じゃあるまいし。
「純兄どこ?」
「目の前に居るだろうが」
「暗くて見えないんだよ」
慣れろよ。
「おら、さっさと行くぞ」
「見えないって言ってるのに!」
服掴むな。首が絞まる。
「あ、純兄がここに居たからー。あ、手ここだ。よし!」
よしじゃねぇよ。
「何で手ぇ掴んでくるんだよ」
「はぐれそうじゃん?」
「納得」
だって忍の方見ねぇし。
「こぉおおおおんのリア充がぁああああああ!」
「んっ」「とっ」
あ。
しまった。
「ぎゃぁああああああああっ!」
二人そろって蹴っちまった。
ほら、暗い所から突然叫びながら出て来るから……。
「どーしよ兄ちゃん。つい誰がリア充だーと言う否定のつもりで」
「……まぁ、いいや」
向こう気絶してる……。一分もすれば起きるだろっ!
『ごめんなさい』
謝るだけ謝って、次。
「んっと、ここ曲がればいいのか」
「ねぇ、やっぱりまだぼんやりとしか見えないよ。痛っ」
よかったな、壁が段ボールで。
「とーぉりゃんせー、とーりゃんせー」
……とおりゃんせの歌が聞こえてきた……。
上手いな、歌ってる人。
「こーこはどーこの細道じゃー」
今のは忍だな。
「きゃぁあああああ! 他の声が聞こえるぅうううう!」
…………えっと。
「勝った!」
「勝ったじゃねぇよ」
何の勝負だ。
「あーした天気になぁーあれっ」
下駄飛んできた!?
「……ん、明日は雪らしいですよ」
「それ僕が言うはずだったのにぃいいいいい!?」
あれ、着物の男の子が泣きながら走ってった。
…………何かまずいことしたか?
「純兄、勝ったね」
だから何の勝負だよ。
「ねぇ……遊ぼうよ」
今度は着物の女の子かよ。
「ほら、おいでよ」
「純兄、この人、力強い……」
あ? 忍は手ぇ引っ張られてたのか。
「よし、そのまま手綱引きしろよ。はないちもんめの時みたいに」
「了解っ!」
足を合わせて、お互いの手を引っ張る奴。
俺は見てよう。
「むぁっ……」
「むぅっ」
飽きた。
「よぅっし! 勝った!」
お化け屋敷ってお化けと勝負する屋敷だっけ?
誰か辞書を貸してくれ。
「一まぁあああああい、二ぃまぁああああああい」
「お菊さんが居る」
「あぁ、似てねぇな」
「って、実在するの!?」
ん、あの人の料理旨ぇぞ。
『一枚、二枚……九枚……はぁ……一枚、足りない……』ってのが口癖だな。
誰かがあんまり可哀そうだからって皿買おうとしてた。わざわざ貯金までして。
「一枚、足りなぁあああああああい!」
「キャァアアアアアアアア!」
「キャァアアアアアアアア!」
うぉわ。
「し、忍?」
捕まれた腕が痛ぇ。耳も痛ぇ。
高っかい悲鳴二つも同時に聞いた……。
「びっくりしたぁ……突然出て来るもんだから」
「びっくりした、びっくりしたぁ……怖かった……」
「くくっあははっ」
「純兄! 何で笑うの!?」
お化け屋敷のオバケ役の方がビビってんじゃねぇか。
「オマケに、忍がお化け屋敷程度で悲鳴あげやがったっ、あはははは!」
「純兄、ぶん殴るっ!」
「ははっ。やって見やがれ」
あー、久しぶりに思いっきり笑った。
「もおー。突然出てきたのにびっくりしただけでしょ! 虫が出てきたのとおんなじこと!」
「私は虫か!?」
夏の気持ちがよく分かった。面白いときには笑った方がもっとおもしれぇな。
「あはは」
「お菊さんごめんなさい。純兄は後で肉まん奢って」
絶対ヤだ。