210 コーヒー
「コーヒーだ」
「コーヒーだね~」
「……コーヒーがどうしたの?」
コーヒーがあったんだよ。
紙パックのやつ。『微糖』とか書かれてるの。
春だよっ。
ひーちゃん家でね、コーヒーを見つけたの。それだけ。
「どうしようか~」
『何を?』
「このコーヒー」
どうかするの!?
「家にコーヒーの紙パックがあるのは珍しいの~」
「ウチん家には常にあるけどなぁ。お兄ちゃんとお父さんが飲んでるよ」
わっかんないなぁ、なんであんな苦いのが飲めるんだろ。
「……ぶらっく?」
「うん、そのまんま」
「すご~い~! なっくんて実は大人だったんだね~」
ブラックのコーヒーが飲める=大人
これって、間違いじゃないよ! ウチ達からしたら。
「純くん飲んでそうじゃん」
「まずコーヒー飲んでるところ見たことないよ~」
「……お兄さん、紅茶派?」
「紅茶は嫌いって言ってた~。臭いがキツイって~」
美味しいのに! ウチ、ミルクティー大好きだよ!
「あ~、そうだ~」
「……?」
「お兄ちゃん達に飲ませてみよう~」
「実験?」
「ピンポーン~」
どうなるのかな、どうなるのかな?
「純お兄ちゃん~。岳お兄ちゃんも~。コーヒー飲んで~」
『何を突然』
ビバ突然! ……なんとなく言ってみたかっただけだよ。
コーヒーのコップを渡してみると……。
「これ、何か手加えた?」
岳くんに、すごぉく怖がってるような顔で言われちゃった。
何か、失礼じゃない!?
「なにもしてないよ!」
「うん……まんま」
「あ、んじゃ貰っとく。サンキューな。ちょーどのど乾いてたんだ、オレ」
岳くんはあっさり飲み干した! 意外! だってゴーヤ嫌いなんだもん、岳くん。
関係ないか。
「何で純お兄ちゃんまであっさり飲むの~?」
「何か悪いか?」
『悪い』
面白い反応を期待してたんだよウチ達は!
「何してんの?」
忍ちゃん、ドアの隙間から出した顔が生首みたいで怖いよ!
「お姉さん、飲んで」
「コーヒー? ……この中に火薬が入ってて飲んだ瞬間ドカーンなんてことは」
『あるわけないでしょ』
さすがにそこまではしないよ!
「大丈夫だよ~、何もしてないから~」
「じゃあいただきます」
あっさり信じるんだな~。岳くんたちもそうだったけど。
「うぇ、やっぱ苦い。牛乳足そ」
あれ?
「忍ちゃんはコーヒー飲めないんだ」
「……でも、面白くなかった」
それは確かに。
……というか、コーヒーだけで面白い反応する人って居るのかな?