204 はぐれて見つけて金魚すくい
「はぐれた……」
こんばんは。はぐれました。
忍です。
今日はお祭りなのです。
一緒に来たはずの純兄となっくんが迷子になりました。
え? 迷子になったのはあたしの方? そうとも言う。
あ、綿菓子発見。食べよう。こんなのは探すだけ無駄。適当にぶらついてたらそのうち見つかるよ。
「というわけで、いただきます」
綿菓子っておいしいよねー。
「あ、忍~」
「来てたのか」
「おー、しーちゃんに桜。二人一緒に来てるとあたしだけ仲間はずれにされてたような気分になるのですが」
泣きそうです、友達に仲間はずれにされました。
「ほら、小学校の校区違うから待ち合わせしにくいでしょ~。忍は忍で来ると思ってたの」
あたしの行動は想定済みですか、そうですか。
「ところで、清見なかったか?」
「迷子の迷子の清くんなの」
「見てないよ。あ、それより焼きそば食べない?」
『食い意地はってるな(はってるね)』
ほっとけ。今日の晩ご飯なんだよ。
綿菓子は食事の前ののデザート。
「あれ?」
ん? どした桜。
「清くん見つけた」
あっさりだなぁ。
「桜、他人のふりだ」
清、たこ焼きは口いっぱいに詰め込むものじゃないよー。
「む! ひふへは!」
「み、見つかった~っ! 逃げるよぉっ!」
「んぐ、んぐ……こらっ、逃げんな!」
逃げたのは桜だけですが。
「あれ、篠は?」
篠もだった!
「あ、ねぇ、純兄となっくん見なかった?」
「あん? 見てねーよ。あぁ、でもお前の妹なら……」
光? はーちゃんと美代と一緒に来てた筈。三人揃って浴衣着て。
「金魚すくい女王の座に君臨してたぞ。ほら、あっち」
何やってんだ光! 金魚すくい女王って何!?
ちょっと覗きに行こう。
「ほらほら~! 早く取らないとなくなっちゃうよ~」
「いけいけひーちゃん!」
「……いけいけー」
おぉ、あっさり見つかった。
金魚すくい女王とその側近。どうでもいいけど金魚すくい女王って語呂悪いな。
「じょおーさま! たくみのもとって!」
「ゆーちゃんのも!」
「ぼくも!」
おぉ、自分で取れないちびっ子たちに大人気。
誰だ、『じょおーさま』とか言った奴。
「じょ、譲ちゃん、頼むから全部は盗らないでくれ」
金魚すくいのおじさん、字が違うんじゃない?
「どうせ三匹しか持って帰っちゃダメなんだから、な?」
『え~っ』
「え~じゃねぇよこら」
あ、純兄めっけた。
「あ~、純お兄ちゃん~」
「見てみて! ひーちゃんがこんなに取ったんだよ!」
「……百円で取りほーだい」
「違うからね!?」
あ、純兄が登場してから金魚すくいのおじさんがちょっと安心したような顔してる。
「テメェら、どうせ取るなら家にいねぇ出目金にしろ」
『了解!』
あぁ、金魚すくいのおじさんが『ガガーン!』って顔してる。どんな顔かは皆様の想像にお任せします。ヒントは酷い顔。
「あぁ……この兄にしてこの妹なのか」
「おっさん、被害が出目金だけでよかったじゃん?」
なっくん、慰めになってるのかそれ。笑いながら言うからほら、おじさん泣いちゃったよ。
「美代! こら! 家に水槽無いの忘れたか?」
「兄上。ほら、金魚」
「可愛えー」
……村田、頬が緩んでる……。
ほんとに元いじめっ子かこの人。
それはともかく。
お祭りはまだまだ始まったばかり。