203 お土産騒動
「はい、お土産~」
「おーっ、サンキュー」
「わ、ありがとっ」
「え、私にもっ!?」
「あ、ども」
凄いね、誰一人として同じ反応をしない。
忍でーす。
「開けていい?」
「いいよいいよ~」
何かなー。何か丸っこくて硬いモノが入ってたけど。
「あら、小瓶? ……の、中身は何? 何かの歯?」
「サメの歯だよ、魔よけのお守り」
「へぇ、ありがとう。お、お返しないけど……」
「いいよいいよ~」
あれ?
「あたしのはペンダントだ」
縦に伸びた丸いガラスの中に埋め込んである。
「あ、それ俺も」
「俺も」
「忍と純くんはそっちの方が好きかな~と思って」
よく分かってる。
「なっくんは……小瓶じゃ、失くしちゃうでしょ? ペンダントも付けてなかったらそうなりそうだけど」
よく分かってる。
「……もう俺、これずっと付けとくよ……失くしたらもったいねぇし、悪いし」
「わ~、嬉し」
ピキッ
あれ、何か変な音が。
「ちょっと海中、割ったんじゃないでしょうね?」
「いや、俺じゃねぇよ」
「純のだ」
見てみたら。
純兄の手の上でガラス球が真っ二つ。
「純、お前何か憑いてるんじゃないか?」
「篠、それはないっしょ」
憑かれてるといえば憑かれてるけど、死神に。
おぉ、ここだけ何も知らない人が読めばかなり怖い。
「た、高山そのものが魔なんじゃない!」
「えぇっ!? 玲奈ってば酷い!?」
「貴方には言ってないのよ!」
だってあたしも高山だし。
「歯が出てきた」
「おー、貸して貸して」
見たい見たい!
「痛ッ」
「純兄大丈夫? 血ぃ出てるよ?」
「この歯、俺に喧嘩売ってんのか?」
刺さったのかな、引っかいたのかな?
ところでなっくん、今は放課後だけど、いつもなら笑い声のせいでクラス中の人に見られてる事分かってる?
「……さっきの、冗談のつもりだったけど、そうでも無さそうね」
「純兄、あたし以外誰も心配してないよー? かーなし」
「別に悲しかねぇよ」
「見ててかーなし」
痛い痛い、鳩尾に手、突っ込まないで。
殴られるより衝撃は無いけどめり込むのも痛いから。
「あ、あたし絆創膏持ってるぞ」
「お、さーすが篠」
「いや、いい。多分絆創膏じゃおさまんねぇから」
『どんだけ深いんだよ!?』
「んー、カッターで切った時以上、彫刻刀で掘った時以下」
あいまいだなぁ。
「保健室、行って来たら? 別にあんたの心配してるわけじゃないけどっ」
「へいへい」
「忍の心配だからね! あんたが死んだら忍が悲しむでしょっ!」
「そうだよー、兄ちゃん、忍、泣いちゃうよ?」
ちょっとノって見た
「俺の傷はどんだけ深いんだよ」
指の先っぽだけだけど。
「ああああもうっ! さっさと行きなさいっ!」
「ゆでダコだ」
「りんごって言ってあげようよ~」
「五月蠅いわね!」
まっかっか。
「……ところで鈴木」
「なによ!」
「シャツ掴まれてたら、進めねぇ事くらい、分かるよな?」
ぼんっ しゅー
「あはは」
なっくん、笑ってばっかりいないでよ。
「玲奈が煙を上げて倒れたっ!」
ナイスキャッチ、篠。
「オーバーヒート~」
「ロボットじゃあるめーし」
保健室行きが一人増えた。
「どーやって持ってこう」
「よし、岬! お姫さん抱っこだ!」
「はひ!? 何で俺!?」
居たの!? 全然気づかなかった。案外影薄いね、この人。
「ほら、俺の爆笑のためにやれよ」
「やらん!」
そりゃぁそんな事言われたら誰だってやりたくなくなるわな。
「ほい、これでいいだろ」
「純くん、女の子を担ぐってどうかと思うよ?」
「桜、こいつはデリカシー欠けてるんだ。仕方がない」
「……忍、負ぶってやれ」
結局あたしに回すんですかお兄さん。
っていうか、よく指怪我してるのに担ごうとか思ったね。
いや、怪我してるのと反対の指だったけど。
保健室。
「先生、お土産でーす」
そう言って玲奈を渡したら。
保健室の先生(男)は妙に慌ててた。
……あたし、何か悪いことした?