202 誰でもピンチの時は心が通じ合うもの
「あああああああっ!」
…………五月蠅い。隣の家なのに響いてくる。どんだけ大声出してんだ。
「なぁにーちゃん、今のなっくんの悲鳴」
「ほっとけ」
多分、明日提出の宿題か何か失くしただけだろ。
「なぁにーちゃん」
「ん?」
「夏休みがなんで八月中に終わんだよ」
「教育委員会にでも聞いて来い」
「そんな度胸ねーもん」
さらっと言ったな。
「やっぱさ、中学生はともかく小学生くらいは八月いっぱい休みでもよくね?」
「俺が小学のときはそうだった」
「ずっこい!」
「あぁずっこいよ? 何か悪い?」
弟や妹、その他誰かに『ずるい』と言われた時の対処の仕方。
否定したら『ずるい』『ずるくない』のループになるぞ。
「開き直んなよ」
「おい純っ!」
夏、たまには玄関から入ってきたらどうだ。
「探し物なら手伝わねぇよ?」
「問答無用! 来い!」
ヤだ。と言う前に襟首掴まれたら答えられん。
「……で、何を探せって?」
「英語のワーク。あとはまぁ、俺の鉛筆が二、三本」
「ん、まぁ頑張れ」
「んー、まいっか。ワークの方はお前のなんだけど」
今、何か聞き捨てならないようなことを言わなかったか?
「誰のだって?」
「んだから、お前の」
「首絞められるのと鳩尾蹴られるのとどっちがいい?」
「あはは、らんぼー」
うぁ、ムカつく。
妙羅の相手してる時以上にムカつく。
「ん」
そういう訳で鳩尾蹴ってやった。
「あのさぁ、鳩尾って痛いのよ?」
「これでもかと言うほど知ってる」
小さいとき、同じ布団で寝てた忍に何度もかかと落としされたからな
岳にやられたこともあった。
「お前さ」
「ん?」
「今俺の笑い止めたよな」
額らへんに『怒』って文字が見える。
「俺を屍にしようとでも?」
「そう」
「やってみやがれ」
「やってやるよ。今すぐ」
……ん?
俺は何しに夏ん家来たんだったっけ。
確か探し物手伝えって事で来たはず。
それが何で喧嘩になってる? 取っ組み合い……っつか、殴り合いの。
「そう言えば」
「あん?」
「何でテメェが俺のワーク持ってんだ」
「あぁ、答え写そうと思って」
……夏休みの宿題を今日やろうとしたな。
「答えの本があるだろ」
「それも失くした」
「……テメェ、アホだろ」
「いや、成績オール三を守ってるぜ」
危な、鳩尾に拳入るところだった。
「お前さぁ。オール三はアホだとか思ってね?」
「せめて四が一つくらいあっても」
「一般人ナメんな!」
威張るとこか?
「世の中にはなっ、オール三を目標にしてる奴だっているんだ!」
「……清か?」
「良雅くん」
あれ、小学の時成績よかったのにな。
「赤点の嵐ナメんなだってさ」
…………良雅くん、何があった。あぁ、酒始めたのか。
「あーっ、お兄ちゃん何やってるの!?」
「俺の笑いを遮った奴の始末」
「もぅ! ほらストップストップ!」
春に入ってこられると止めるんだな……。いざと言うときのために覚えておこう。あるのかどうかはともかく。
「あーあー、引っかけてたハンガー落ちちゃったよ。直しとくんだよ?」
『へいへい』
「返事は一回!」
「母さんかよ」
「へへ、言ってみたかったんだー。あ、そうだ! いまひーちゃんとみーちゃんと一緒にゼリー作ってるからね、後で持ってくるね!」
最近やって無いなーと思ってたんだ。
同時に、そろそろやるんじゃねぇのかなーとも思ってたんだ。
「純」
「分かってる」
一瞬でハンガーを直して、すぐさま逃げる。
とりあえずゼリーが出来て、それを他の奴等が食べ終わるまでは裏山にでも行っておこう。