2 真っ黒めざしの恐怖
「純兄~!」
ぱしっ
忍でーす。
暇だったのでなんとなく兄の純に横蹴りをしてみた。
結果、見事に受止められた。
「んだよ、いきなり」
若干言葉遣いは悪いけど決して不良ではないのであしからず。…………いや、あの、授業サボることはたまにあるけど、ね。
「いや、なんとなく」
「テメェなんとなくで人蹴んのかよ」
「だいじょーぶ、純兄だけだから」
「ったく……。岳にすりゃいいじゃねーか」
岳っていうのはみっつ下の弟ね。
「岳ならいいんだ?」
「俺に被害が及ばなければよし」
なんて酷い兄だろう。
「ねーちゃーん! またはにーちゃん、へるぷみー!!」
今、階段から落っこち……もとい下りてきたのが岳ね。
「どったの?」
「光があの真っ黒めざしオレに食べさせようとしてんだよ!!」
あぁ、昨日買ってきためちゃくちゃ苦いヤツね。
……うん、
『まぁガンバレ』
「んなトコでハモるなぁぁあ!!!」
「岳お兄ちゃ~ん、どこ~?」
あ、光も下りてきたね。
「ぅげ。へーるぷみー?」
なぜに疑問形?
「あれ~? 岳お兄ちゃんは~?」
「あれ? 今までここにいたのに……」
消えてるし。
逃げ足は速いからな~。
「何で~!?」
その手に持った真っ黒めざしが原因だと思うよ?
昨日より量が増えてるような気がするのはあたしの気のせいだよね。
……気のせいだよね!?
「ん~。ま、いいや~」
いいんだ。
「純お兄ちゃん、食べて~」
「え゛」
ありゃ、純兄、ご愁傷様。
って、このままあたしもここにいたら巻き込まれそうだね。
逃げよう。それが一番良いに決まっている。
純兄を助けようという気は皆無。
だって、純兄とあたしの立場が逆だとするでしょ?
純兄はあたしを助けようとするわけがない!
カチャ
「あ、ねーちゃん!」
「あ、純兄を見捨てた兄不幸者」
「それはねーちゃんだろ!」
うん。それが何か?
あたしに被害が及ばなければよし!
「で、岳は何でここに居んの」
ここ、あたしと光の部屋なんだけど。
「いや、階段から一番近かったからつい」
なんて理由だ。
「あれ、岳までここに居んのか?」
「あ、純兄。どうだったお味は」
「いや俺は食ってねぇよ」
『えええええ!!』
ズルイよ! 純兄は食べないなんて!
「オレなんか3匹も食わされたのにぃ!!」
それは酷い。
「何でだ!? どうやって逃げたんだ!?」
「親父かお袋に食わせた方が面白い反応をするんじゃねぇか、って言ったらあっさり」
「その手があったかぁぁぁぁ!!」
……いや、岳は無理じゃないかな。
だって、
『岳の反応の方が面白い』
「だからんなトコでハモるなぁぁぁ!!」
事実だし。
とはいえ、やっぱりあたし達もおとーさんやおかーさんの反応も気になるのでこっそり陰から見てみることにした。
おかーさんの場合。
二階で洗濯物をたたんでいる所に光がやってまいりました。
あ、ちなみにおかーさんは主婦。
週に二回仕事行って、月に一回ボランティアしてるけど。
「お母さ~ん、これ食べて~」
「ん~?…………」
おかーさん、一瞬フリーズ。
かと思いきや、ニコッと笑って、
「お父さんにあげておいで~。
きっと面白いリアクションしてくれるよ~」
純兄と同し追い払い方をして見せた。
う~ん、流石親子。
あ、気付いたかもしれないけど光の口調はおかーさんに似たんだよ。
ついでに顔もそっくりなんだ。
おとーさんの場合。
おとーさんはパソコンの前で……仕事かな、アレは。
ちなみにおとーさんの仕事は銀行員ね。
「お父さ~ん」
「ん?」
「お父さんって~、めざし好き~?」
あ、手段変えたね。
「ん、まぁ好きかな」
「じゃ~、目瞑って~、口開けて~」
「お?何々?」
「えへへ~、お楽しみ~」
……おとーさん、この後どんな悲劇が待ち受けてるかも知らず、目を瞑って口を開けます。
えと、なんていうか……ガンバレ?ドンマイ?
「はい~、プレゼント~♪」
「☆#●%$@〇★!?」
……光よ、それはあんまりだ。
おとーさんの今の状態。
口から真っ黒めざしの尻尾を大量に生やし、声にならない悲鳴を上げている。
終いには何故か踊りだした。
……変な食べ物って、怖いね。
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