197 いざ、勝負っ!
「じゅんじゅん! 今日こそいざ勝負っ!」
あー、毎回毎回なんだかんだで流されてたもんなー。
今日こそ勝負したいと。
あれ、最終目的が変わってる気がすんだけど?
岳だーっ。
「たっちゃん、道着着替えて来い」
「勝負するために着てきたの! これが一番動きやすいけん」
えー? そうか?
ちょっとだけ着てみたことあるけど、重いし帯ちょっと苦しいし、逆に動きにくかったぜ?
ごわごわだし。くどい?
「さあ観念するのだ純ちゃん! 今日は逃げられんぞ!」
「誰だよ」
「皐月だよっ!」
それは分かってると思うけど?
「…………よしたけ」
「誰がよしたけだコラ!」
たく、いくらなんでも名前を思いっきり変えんのはやめい。
「違う! よし、たけ。っつったんじゃ!」
何だ。面白くない。
「おいら達もやるぞ!」
「何を?」
「流れで分かれや! 勝負っ!」
わー、いきなり殴りかかってきたぁー。かーさん助けてー。
とか思いつつ避けはするけど。
「避けんなボケコラァ!」
「いや、避けんなって言われても……なぁ?」
「受けると言う選択肢があるじゃろ!」
「うーん。たっちゃんに空手の受け教えてもらおっか」
「素直に殴られるという選択肢があるじゃろ!」
避けれるパンチを何もしないでぼけーっと殴られる奴はマゾだと思う。
違う?
「じゅんじゅん! やるぞ!」
「やんなきゃダメ?」
「ダメ!」
「じゃあヤだ」
「くぉらぁあああああ!」
何でそこで起こるのが皐月姉ちゃんなんだよ。
あれ、なんでオレあんな変……じゃなくて個性的? な人に姉ちゃんつけてんのかなぁ。
「たけ! ボーっとしてたら当たるぞ!」
「へっへっへー。たく! 足元がら空きだぜ!」
足払ぁい!
あれ、払ったはいいけど、こっからどうしよう。
まうんてんぽじしょん? とかオレ知らねーんだけど。あれ、まうんとだっけ。
「じゅんじゅん! もうじゅんじゅんが嫌でも行くから!」
……あのさー。たっちゃんって空手習ってる筈なんだよね。
なのにさー、今にーちゃん殴ろうとしてんの、まるで空手っぽくねーんだけど。
たっちゃんの中では、これ単なる喧嘩なんだな。
「とりゃっ!」
「ぐほっ!? ちょっ、たく! いまの鳩尾入ったぞ!?」
「入れたんじゃよ!」
ちぃ、よそ見してたらたくに鳩尾蹴られた……。
「たけるぅー、ゆだんたいてきじゃねっ!」
「たくやぁー、いけいけー! ねっ!」
うぁ、二歳に注意された。
「ってか勇気。油断大敵ってどこで覚えた!?」
「にぃたんのことわざ辞典ねっ!」
読めるんか!?
あー、あれだ。こいつは将来、超難関大学とかに受かっちゃうんだな。きっと。
大げさか?
「へへっ、たけ! こっちには菜月が味方に付いちょんじゃ。大人しく降参せい!」
あれ、喧嘩ってこんなんだったっけ?
「たくやぁー、なつきたん、どっちにもついちょらん、ねっ!」
「かんちがいやろー、ねっ!」
さいごの『ねっ!』って最初は可愛いとか思ったけど、何かこう毎回毎回つけられるとイラッと来るな。
「たけるぅー、たくやちんぼつねっ!」
「たけるぅー、かったねっ!」
いや、多分勇気、菜月ペアが勝ったんだと思う。
「うぅっ! 来年こそ勝っちゃるんじゃけえ、覚悟しちょけよじゅんじゅん!」
「あー、ハイハイ。来年こそもう少し大人しくなっとけよ、たっちゃん」
何か向こうで毎年恒例の言葉言い合ってんなぁ……。